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「大学入学共通テスト」への当社コメント(地理B)

 

地理B

 

 【総評】

 令和3年度大学入学共通テスト(以下、共通テスト)第1日程と、昨年度までの大学入試センター試験(以下、センター試験)を比較すると、地理では大問数が1大問減り、出題形式等に多少の変動が見られたが、内容面での大きな変更点は見られなかった。

 共通テストの難易度に関してはセンター試験より大問や解答数は減ったが、組合せ問題の増加や、1問あたりに使用される資料の点数の増加により、「資料の読み解き」について難易度が上がったといえる。一方で、共通テストでは細かな教科書の暗記による知識よりも概念的・全体的な例から知識を確認する形式が増加し、より広い視点から物事を思考させる問題が増えた。個別具体的な知識を必要とせず、解きやすくなった面もあり、「資料の読み解き」の難化によって受験生が不利になるとは一概には言えない。そのため、地理では共通テストに対応するために新たな対策を講じるよりも、センター試験を踏襲しつつ、より広い視点から読み解くために知識を習得していく姿勢が求められるのではないか。

 以下、詳細に見ていくこととする。

◎大問構成・分量の比較

 大問構成を見ると、センター試験では学習指導要領の区分に沿って「自然環境」「産業・資源」「人口、都市・村落/生活文化、民族・宗教」「地図の活用と地域調査(地形図)」の各分野から4大問、「世界地誌」の分野から2大問の全6大問の構成で出題されるのが通例となっていた。共通テストでも学習指導要領の区分に沿っていることは変わらないが、地誌に関する大問が1つ減った全5大問であり、プレテストを踏まえた構成になったといえる。解答数についてもセンター試験(令和2年度)では35であったが、共通テスト第1日程、プレテスト(平成30年度)は共に32、共通テスト第2日程では30であった。

 センター試験から大問は1つ減り、解答数も3つ減った構成となっているため一見問題内容が減ったようにも見えるが、使用されている資料の点数についてはセンター試験(令和2年度)・共通テスト共に37点前後で大差はなく、問題冊子のページ数についても34ページから変わりがなかった。

◎出題形式の比較

 出題形式については、センター試験でも出題されてきた写真や統計資料を用いた問題に加えて、「資料」として模式図(第1問 問1、問3)や調査結果(第5問 問5)が示されるようになった。第1問と第5問では会話文や課題研究といった受験生に身近な設定も見られた。プレテストで見られた、世界地図(分布図)の特定の範囲を切り取った地図の穴埋め形式(第3問 問1)についても出題された。

 また、共通テストでの新しい形式として、プレテストで見られたような仮想の条件に基づいて工場立地について考えさせる形式(第2問 問3)、意見や調べたことをカードにまとめて示し、因果関係について問う形式(第1問 問3)が出題された。

◎設問形式の比較

 設問形式については、文章選択(文章正誤も含む)の設問が減少し、組合せを問う設問が増加した。センター試験(令和2年度)、プレテスト(平成30年度)と比較しても、センター試験では8問あった文章選択がプレテストでは6問になり、共通テストでは5問と減少傾向が続いている。対して組合せの設問はセンター試験で11問、プレテストでは19問、共通テストでは20問と増加している。

 文章選択では、センター試験で出題されていた選択肢の下線部について誤りを含むものを選択させる文章正誤の設問と同様のものが第2日程で見られた。しかし共通テスト第1日程では2つの文章のうち「誤りを含むものすべて」(第1問 問5)といった実質的な正誤の4択問題として出題され、文章選択の設問が組合せを問う設問へ変化したといえる。

 設問自体に組合せ形式が増加したことに加え、空欄や図表に示された要素全ての組合せを問うような、複雑な組合せも多くなった。それに伴い選択肢数も増加しており、センター試験では選択肢数は最大6択であったが、共通テスト第1日程では8択となっている。プレテスト(平成30年度)で見られた9択の問題は、共通テスト第2日程にて出題された。プレテストでは3要素の正誤の組合せで8択の設問が見られたが、共通テストでは2要素の正誤の組合せ4択として出題された。

 プレテストで出題されていたものの共通テストで出題が見送られた形式として選択肢から「二つ」選ばせるものがあげられるが、形を変えて1問分の選択肢で2問分の解答をさせる形式(第1問 問4)で出題された。

 

【特徴的な問題】

 共通テストに特徴的な傾向として、①出題形式と設問形式の複雑化、②仮想条件や模式図を基にした出題、③地誌分野の扱いの変化の3点があげられる。

 以下、それぞれの特徴的な問題に注目して見ていく。

①出題形式と設問形式の複雑化

 まず、雨温図の示され方が複雑であり、第1問 問2では比較する雨温図の一方を伏せる形式が登場した。この点については示された雨温図の特徴ならA地点というような従来の単答式の知識の確認から、その雨温図の特徴を示すためにはどのような要素が考えられるかといった知識を基にした、思考・判断を問う形式に変化したといえる。

 また、設問形式では第1問 問3のカードに示された意見が「災害のきっかけ」「災害に対する弱さ」のどちらにあてはまるか、第4問 問1の「1950年の人口分布の重心」や「2010年の重心への移動方向」とそれが生じる要因を問うというように、関係する現象の両者の情報を伏せたうえでそれらについて段階的に思考させる形式が見られた。

 選択肢でグラフ・表に示された複数の要素全ての組合せを問う形式も多く見られた。第4問 問2ではアメリカの州別の「取水量の水源別の割合」と「使用目的別の割合」を示した表から各州の組合せを問う出題がされたが、水源という自然地理の知識と使用目的という産業に関する知識を組合せて思考する必要があり、設問内で複合的な知識をもって思考させる形式が特徴的といえる。

②仮想条件や模式図を基にした出題

 仮想条件に基づいた出題は第2問 問3で出題された。第2問では、特に問3で仮想地域に与えられた仮定条件の下で工場立地について思考させた後に、問4では教科書にも記載のある乳製品についての具体的な例を示したことで大問内での発展的な思考につなげている。原理から現象への思考の誘導がスムーズに行われた良問といえる。

 また、第1問での出題が多く見られる模式図は、問1の図であれば気候因子の特徴、問6の図は氷河縮小の特徴をそれぞれ教科書で説明された現象を図として再構築したものである。教科書の知識をただ暗記するだけではなく、それが模式図で表現された形でも知識と結び付けて考えられるかという形式に変化したといえる。

 以上の事から、特に教科書知識重視であった自然地理の分野でより思考・判断力を問うために仮想条件の設定や模式図を用いた出題をしたのではないか。今後もこの傾向が続くのであれば、仮想条件の設定の仕方や模式図の選択に注目していきたい。

③地誌分野の扱いの変化

 センター試験より1大問減った出題となった地誌分野については、第4問でアメリカの地誌が取り上げられ、全体的にアメリカについてより細かな知識が求められる出題が多かった。例えば問5では「持ち家率」など見慣れない指標が出題され、問6では時事問題ともいえる大統領選挙について出題された。一方で、第2日程第4問では西アジアが取り上げられ、従来のセンター試験のような国単位での比較地誌が出題された。

 地誌分野が共通テストで1大問に集約された結果、第1日程のように1国について掘り下げた出題となるのか、第2日程のように国単位で比較するのか、来年度以降の地誌の扱いに注目していきたい。