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「大学入学共通テスト」への当社コメント(地学基礎・地学)

【総論】

〇「地学基礎」

 従来のセンター試験と同様に,教科書で扱われている内容からバランスよく出題された。図・表から必要な情報を読み取り考察させる問題が増え,一方で,単純に知識を問う問題が減少した。実験・観察や探究活動の場面を想定した問題が多く,従来のセンター試験に近い出題内容であった。第2回試行調査でみられたレポート形式の問題は出題されなかったが,第1問 問5「岩石標本を特定する課題」など,学習の過程を意識した場面設定が取り入れられた。

〇「地学」

 「地学基礎」と同様に,資料から必要な情報を読み取り考察させる問題が増え,単純に知識を問う問題が減少した。そのほか,センター試験からの変更点として,第1問が複数分野の総合問題となった。これは,第2回試行調査と同じ形式であり,図式化された1つのテーマについて,「大気と海洋」「固体地球の活動」「固体地球の外観」「地球の歴史」「宇宙の構造」の各分野からそれぞれ小問が1題ずつ出題される形式である。また,第3問Aのレポート形式や,第5問Bの対話形式など,問題の設定にバリエーションが増えたが,この点は昨年のセンター試験から漸移的に移行されている。

 単純に知識・理解を問う問題については,従来通りやや細かい知識を必要とする記述の正誤判断が複数出題されたほか,第1問 問3の「アイソスタシー」や第3問Bの「地質図」,第5問 問2の「変光星までの距離」のように,教科書の例題や章末問題で扱われるような典型的な問題が出題され,従来のセンター試験よりも単純で易しく,基本的な概念や原理・法則などの理解を着実にはかる意図が見受けられる。

 

【読図,考察問題について】

 「地学基礎」「地学」のいずれも,第2回試行調査と同様に,資料から必要な情報を読み取り,持ち合わせた知識と融合させて考察する問題が多く出題された。例えば,「地学」第2問 問5の「マントルの元素組成」は,地球全体,地殻の元素組成を手がかりとして,核の元素組成や地球の内部構造に関する知識と結び付けて考察する必要がある。また,「地学基礎」第2問Aの「台風による海面の高さの変動」についても,自然法則をただ暗記しているだけでは対応できず,どの知識をどのように使うかを考えて対処する思考力が必要とされる。これらは,共通テストの問題作成方針に記されている,「受験者にとって既知ではないものも含めた資料等に⽰された事物・現象を分析的・総合的に考察する⼒を問う問題」や「観察・実験・調査の結果などを数学的な⼿法を活⽤して分析し解釈する⼒を問う問題」に相当する出題であると考えられる。そのほか,「地学基礎」第2問Aのように条件を制約した場合に得られる結果について考察させる問題や,「地学基礎」第1問 問7のように予想を検証するためにとるべき手法を選ばせる問題など,「科学的に探究する過程」を意識した,演繹的な思考を要求する問題も新しい傾向である。

 また,「地学」では,第2回試行調査と同様に,変数を3つもつ図から数値を読み取り解釈する問題が出題され,このほかにも対数グラフなどの高度な図の読み取りや,読図・計算処理のみで対処できる問題もあり,「数学的な手法」を重視する傾向もうかがえる。

 なお,教科書には載っていない「受験者が既知ではない資料」を提示する場合,予備知識のない受験者に正確に内容を伝えるために,必然的に文章量は多くなる。その結果,問題文の可読性が下がり,受験生に過度な負担を与える。この点は,第1回試行調査,第2回試行調査を経て改善・工夫が見られ,今回の共通テストにおいても,「地学基礎」「地学」のいずれも適切な分量に調整されていた。

 

【レポート,対話型の出題形式について】

 レポート,対話形式は,出題方針の「高等学校における『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し,授業において生徒が学習する場⾯や,社会⽣活や⽇常⽣活の中から課題を発⾒し解決⽅法を構想する場⾯,資料やデータ等を基に考察する場⾯など,学習の過程を意識した問題の場⾯設定を重視する。」といった目的のもと導入された形式であると考えられる。先述の通り,考察問題を多く取り入れることで情報過多になることが懸念されるが,レポート形式では観察結果,考察などといった情報が整理され,レポートの書き方・見方に慣れた受験生にとっては情報を収集しやすい,というメリットもある。また,対話形式は,物事の結びつきや論理展開を把握しやすく,受験生の気づき・思考を誘導できる。今回の「地学基礎」第3問Aがレポート形式,「地学」第5問Bが,発問・応答が続く対話形式による出題であり,これらの問題ではそれぞれの出題形式の利点が生かされ,問題文が読み取りやすくなっている。

 

【第1問の総合問題について】

 「地学」第1問で出題された総合問題では,様々な自然現象が分野をまたいで関連し合っていることを意識させるものである。しかし,個々の小問どうしにつながりや展開がなく,冒頭の図も個々の小問を解く上での手がかりや情報を与えるものではない。現状でも知識・技能を図る上で問題のない出題内容ではあるが,諸現象を関連付け,帰納的思考を促すような工夫があった方が,問題作成方針にも掲げているような「主体的な深い学び」にもつながると考える。

以上