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「大学入学共通テスト」への当社コメント(数学ⅠA・ⅡB)

数学IA

第1問

〔1〕(1),(2)は昨年度までのセンター試験の問題と内容,形式ともに非常に近い内容である。第1回目の共通テストということもあり,受験生に配慮した内容になっているものと考えられる。因数分解,解の公式,分母の有理化など,ほとんどの受験生にとって馴染み深く,取り組みやすい内容であると考えられる。

 しかし,(3)に関しては,昨年度までのセンター試験ではあまりみられなかった会話文が登場している。会話文が問題を解くヒントになっており,「2次方程式の解の公式の根号の中」という言葉が登場する。この部分はかなり曖昧な表現で,教科書にある解の公式の「根号の中 b^2-4ac」なのか問題文中の①に「公式にあてはめた後の解の根号の中」なのかどちらについて考察すべきなのか判断しなくてはいけない。数学が得意な生徒にとっては,この会話文は不必要であるだけでなく,かえって思考を阻害する可能性さえある。会話文であるから必ずしも数学的に厳密である必要はないが,どのような問題が受験者の「高校数学の力」を本当に測っているのか今一度考える必要があるだろう。

 

〔2〕三角形の辺の長さと,正方形の面積を関連付ける問題である。類題を解いたことのある受験者とそうでない受験者で差が大きく出そうな問題である。また,問題全体にわたって,丁寧に計算しなくても大雑把な図形を描けば答えがわかる問題もいくつかあり,やはり「慣れ」が必要な問題である。

 

第2問

〔1〕本年度の数学IAの問題中で,最も新傾向といえる問題である。関数の問題であるが,リード文は,陸上競技の「ストライド」と「ピッチ」を定義する内容となっている。(1)はリード文に登場する定義を正確に理解できているかどうかを問う問題であり,目新しい出題形式である。解答する際には速さに関する問題だからというだけでなく,この定義の内容からも,周期や振動数などの考えに慣れ親しんだ物理履修者にかなり有利な問題であったのではないかと考えられる。     

 また,(2)は,学習してきた内容の定着度よりも,設問文の読解力や,問題を解くために必要な情報を選び出す要領の良さを測っている可能性がある。大学入学を目指す者が「共通」に受ける試験で出題すべき問題であるかは,今後さらに議論を重ねる必要があるものと考える。

 

〔2〕全体として問うている内容はかなり基本的な内容である。しかし,(2)などは交互に見比べる必要のある図などの情報があまりに多く,〔1〕と同様,情報の取捨をうまくできるかが問われており,限られた時間の中で落ち着いて対応するのは難しいのではないかと感じるところである。解答時間に対する問題の量が適切でないために,数学以外の力を要求しすぎていないか,来年度以降,強く検討をお願いしたい出題である。

 

第3問

 条件付き確率を考えることの意義を体感することのできる良問である。共通テスト第1回の出題として,次年度以降の受験者が学習する際の良い題材になるであろう。一方,今までのセンター試験との差が小さい問題ともいえる。

 また,(3)(4)は花子さんと太郎さんの会話文がヒントになっており,受験者は会話中の「同様のことが成り立ちそう」と「~なっているみたい」という発言に沿って解答することになる訳だが,この会話によるヒントがなくとも,自力で導くことができた受験者もいただろう。そして,実際には正解にたどり着く力をもっていなかった受験者が,この会話に沿って正解にたどり着いた例もあったのではないだろうか。この会話がないほうが,問題の受験者を弁別する能力が上昇し,よりよい問題になるのではないかとも考えられる出題である。

 

第4問

 問題の設定として,確率の問題でないのにさいころを登場させることに若干の違和感を覚える。また,さいころの目の数が「偶数」か「奇数」かによって,点の移動方向を決め,整数の問題と結び付ける出題である。整数の問題であるのに,さいころの目の偶奇という解答に必要のない情報がリード文に現れている。例えば「石を5個先の点に移動させる作業」に名前を付けるなどの方法で対応できる部分であり,出題する際により精査が必要な個所であると言えるだろう。

 また,(4)は限られた時間の中で厳密に答えを出すのは非常に難しく,それぞれ回数を数え上げるのが結局のところ最適と考えられる。前半の問題を利用するつもりで,(4)を解き始めた受験生にとって,時間のロスが多かったものと考えられる。

 

第5問

 多くの数学Aの内容を含んでおり,大まかな図形を描くだけではなかなか対応できない問題もある。受験者は時間の無い中,相当慎重に図を描く必要に迫られる。また,最後の問題では方べきの定理の逆を利用する場面があり,昨年度までのセンター試験の図形の問題と比較しても難易度が高いものになっていると言えるだろう。また,他の選択問題と比較してもやや難度が高い問題である印象を受ける。

 

数学IIB

 

第1問

〔1〕(1)は教科書の例題・練習レベルの基本的な内容であり,受験生もまずは落ちついて問題に取り組めたのではないかと考える。(2)は(1)で与えられた関数についてcosの係数がpに変化している。これだけの変化であるが,(1)と比較して大きく難易度が上がっており,受験生の力を測定するよい題材であると考える。

 しかし,(ii)ではcosについての加法定理による誘導が与えられており,それに沿って解答することになる。最大値を求める問題であるが,教科書でしっかり学習した受験生の多くは,sinによる三角関数の合成で解答するところではないだろうか。「考える力を見るため」ということなのだろうと推察するが,最大値を求めるための解答を制限することになり,かえって思考の流れを阻害し,解答の自由度が狭められたように感じる。(iii)も教科書のようなsinによる合成の問題と考えれば即座に解答できる問題であり,徒に問題のボリュームを増加させるための誘導ではないのかと疑問を抱かせる問題である。

〔2〕昨年度までのセンター試験ではあまりみかけない形式であるが,自由度の高い良問であるといってよいだろう。(1)(2)は(3)の誘導でありながら,それ自体もさまざまな要素を問う問題として成立している。(3)では4つの式のうち,恒等的に成立するものを探すという流れである。セオリーとしては,(1)(2)で得られた情報から2つ程度まで絞ってそれぞれ調べるのが,時間制限のある中での安全策であるのではないかと考える。しかしながら,次年度以降の受験生には,学習する際にさまざまな角度から数学を考えるよいきっかけになるような問題となるであろう。

 

第2問

 (1)(2)は若干の違いはあるものの,極めて基本的な内容であり,作業としても教科書の例題と練習問題のようにほとんど同じものである。続く(3)も非常に単純な的な作業であり,最終的な問も絶対値が登場するものの,ほとんど考える部分がない問題であると言えるだろう。本問は,しっかり数学IIを学習した生徒にとっては容易に完答できる問題である。平均点確保のためのバランス調整のような問題として存在しているのであろう。

 

第3問

 選択問題とはいえ,統計の問題が第3問として登場している。昨年までのセンター試験と比較し,大きな違いのひとつである。難易度は基本的であるが,範囲としては偏りなく出題されており,次年度以降一つの基準となるであろう。しかし分野の特性上,他の数学の問題と比較しても問題文の分量が多く,正解にたどり着くには,どうしても読解力が他の単元よりも必要になる。数学的な力を「測る」ための問題として成立させるためのバランスが難しいところであろう。

 例えば,(2)の空欄(カ)では,用語の意味を正しく理解していれば計算の必要もなく解答することができる問題である。語彙の正確な理解と,設問文の内容把握を主に問う問題であり,数学的な力を問う問題といえるか議論が必要である。また,形式的な面では,(4)の「調査期間は校長先生による調査と同じ直前の1週間」とあるが,「同じ」なのか「直前」なのか,また何の「直前」なのかわかりにくい問題表現となっており,戸惑った受験者もいたのではないか。

 

第4問

 昨年度までのセンター試験でもよく見かけるような,標準的な問題である。題材も見慣れたものであり,良い意味で普通の問題といえるだろう。しかし,センター試験と比較して受験者に課される計算量が少ない印象を受ける。センター試験では計算のボリュームの大きかった微積分の問題に加えて,数列も計算の比重が減少したために,試験全体として計算量の減少が目立ったように感じる。

 

第5問

 第4問と並んで,センター試験と比較して計算量がかなり少ないベクトルの問題である。全体として添え字が非常に多く,図中にも文字が多いため,実際の内容よりも添え字を読みまちがえないようにすることに神経を使った受験生も多かったのではないだろうか。4つの図で基本的に同じ文字を使うのであれば,添え字が少なくなるような配慮があってもよかったと考える。また,本問では小問ごとの難度がはじめから終わりまで一定であり,いわば「山場」の無い問題であった。出題意図は興味深いものであるが,数学力を測るテストとして受験生を弁別する能力は高くないと思われる。