HOME  >  研究活動  >  「大学入学共通テスト」への当社コメント(世界史B)

「大学入学共通テスト」への当社コメント(世界史B)

世界史B

 【総評】

 思考力・判断力などを重視する新学習指導要領の流れを受けて、今回の大学入学共通テスト第1日程(以下、共通テスト)は、大学入試センター試験(以下、センター試験)から大きく変わった。従来のような教科書の知識の確認だけでなく、資料などを読み解き、世界史の知識を活用することで正解を導く力も求められるようになった。その一方で、解答する上で求められる知識は、従来のセンター試験と比べてより基本的なレベルのものになった。実施前は、思考力・判断力などを意識した問題が増えることで難化するのではないかとも思われたが、今回の共通テストでは、センター試験の平均点と比べて、62.97点→63.49点と上がっている。読解する必要のある資料が増えたことで以前より解答に時間がかかるようになったが、求められる知識が基本的なレベルのものになったことが、平均点の微増に影響したのではないかと推測される。

 以下では、2020年度のセンター試験と2018年度実施の第2回試行調査(以下、プレテスト)とも比較しながら、共通テストについて詳細にみていきたい。

 ①問題全体の分量について

 昨年度のセンター試験と比べて、今回実施された共通テストは、大問数4→5、小問数36→34、ページ数24→30となった。小問数は減ったものの、大問数、ページ数ともに増加した。また、使用された図版・資料の数を比較すると、昨年度のセンター試験は6点であったが、今回の共通テストでは約3倍の17点となった。図版・資料の数が大幅に増えたことで、問題全体の分量はセンター試験より大幅に多くなったといえる。

 次にプレテストと比較すると、共通テストは、使用された図版・資料の数が28→17と減ったものの、大問数、小問数、ページ数はほぼ同じであった。分量は基本的にプレテストを目安にして作成されたといえる。

 ②出題形式・設問形式の変化について

 従来のセンター試験では、大問ごとにあるテーマに沿ったリード文(200~300字程度のオリジナルの文章)を示し、その文章中に引かれた下線部と関連させて各設問がつくられていた。下線部は「交易」「植民地化」などのように抽象的な言葉に引かれることが多く、文章選択問題が主流であった。昨年度のセンター試験をみると、文章選択問題は、36問中27問とおよそ7割以上を占めていた。下線部のキーワードと関連させて文章選択問題を出題することは、1つの設問で幅広い時代・地域について問うことができるという利点があった。しかし一方で、必ずしもリード文の読解を必要とせず、設問だけをみれば解答可能な問題が多くなるという懸念点もあった。

 今回の共通テストでは、その点が大きく変更されたといえる。共通テストでは、大問ごとにリード文の代わりに大問のテーマに沿った資料や会話文、グラフなどが提示され、設問だけをみて解答できないように、それらとうまく関連させて各設問がつくられていた。また、センター試験で主流であった文章選択問題は減り、組合せ形式の問題が大幅に増加した。ただ、大問で提示された具体的な資料等を元に設問がつくられていることや組合せ形式の問題が増えたために、センター試験と比べると時代・地域に偏りがみられたことは懸念される。

 出題形式・設問形式について、プレテストとの比較で言えば、基本的に今回の共通テストは、プレテストを踏襲して作成されたものといえる。しかし、大学入試センターが公表していた「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト作成方針」で述べられていた連動型問題(最初の設問の答えとその後の設問の答えを組合せて解答させる出題式。正答となる組合せが複数ある。)は出題されなかった。

 

【特徴的な出題】

 今回の共通テストでは、従来のセンター試験にはなかった新しいタイプの出題傾向が多くみられた。ここでは、新しいタイプの出題傾向について、①資料の読解が必須となる問題、②空欄と関連させて出題する形式の問題、③資料を並び替えさせる問題、の3つに分類し、それぞれみていくこととする。

 ①資料の読解が必須となる問題

 従来のセンター試験では、教科書の知識を元に解答できるように問題がつくられていた。しかし、共通テストでは、教科書の知識だけではなく、初見の資料などの読解を必要とする問題がいくつかみられた。一例として、第1問の問4をとり上げる。本問では、歴史家マルク=ブロックが自分の村の歴史を書きたいという研究者に対して助言する内容について述べた一節がリード文として提示された。この文章を読ませ、ブロックが研究者に助言する際に「前提としたと思われる歴史上の出来事」と「文書資料についてのブロックの説明」についての組合せを答えさせるという問題であった。「前提としたと思われる歴史上の出来事」については、二つの出来事が提示され、正しい方を選ばせるようになっている。そもそも一方の選択肢は史実として誤りであるため、フランス革命期について知識があれば、難なく解けるようになっている。一方で、「文書資料についてのブロックの説明」は、教科書の知識を必要とせず、初見の資料を読み取り、各選択肢の正誤を逐一判断する必要があった。

 共通テストでは、このような世界史の知識と読解の組合せ問題が多くなった。プレテストのように読解だけで解答できる問題がなくなったことは改善したといえるが、教科の知識と読み解いた内容が必ずしも関連しておらず、知識と読解の単なる組合せ問題になってしまっている問題も多くみられた。

 ②空欄と関連させて出題する形式の問題

 共通テストでは、センター試験になかった、リード文中の空欄と関連させて出題する形式の問題が大幅に増加した。この形式の問題は、主に以下の2つのパターンがみられた。1つは、空欄に当てはまるものと、それに関連する文章や用語の正しい組合せを選ばせるパターンである。例えば、第1問の問1は、リード文中の空欄に当てはまる人物(李斯)とその人物が「統治のために重視したこと」を述べた文章の正しい組合せを選ばせる問題であった。もう1つは、空欄に当てはまるものを直接問うのではなく、空欄に関連することを問うパターンである。例えば、第2問の問6は、会話文中の空欄の人物(ケマル=アタテュルク)の事績について述べた文章として誤っているものを選択させる問題であったが、会話文を読み、空欄の人物が分かっただけでは解けず、その人物の事績についても問われるという二段階式の問題であった。ほかにも、資料として示された条約の文中のうち、地域名が空欄となっており、その地域の位置を示した記号を地図から選択させる問題(第4問の問2)があった。センター試験の地図問題は、都市名と地図中の位置の正しい組合せを問うものが中心であったが、共通テストでは、空欄を使い資料とも関連させるような工夫がみられた。

 ③資料を並び替えさせる問題

 センター試験の年代に関する問題は、ある出来事がいつ起きたかを年表中から選ばせるか、設問内で示した3つの出来事を年代順に正しく配列されたものを選ばせるパターンであった。今回の共通テストで出題された年代整序問題は、複数の資料や出来事の説明を示し、資料等を特定させた上で年代順に正しく配列されたものを選ばせるというものであった。例えば、第5問の問3は、ヨーロッパ旅行をした生徒が書いた旅行記から、3つの地域について抜き書きしたカードを示し、それらが古代ローマの支配下に入った順に正しく配列された選択肢を選ばせる問題であった。あくまで設問文では、地域1~3としか示されておらず、まず地域1~3がどこを指すのかをカードをみて判断する必要があり、その上で古代ローマの支配下に入った順がわかるかを問うものであった。資料から得られた情報を元に、知識を活用しながら正答を導く必要がある良問といえる。