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Academic Research Fellow

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野口 裕之野口裕之 Academic Research Fellow
Hiroyuki Noguchi

1952年大阪府生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業、東京大学大学院教育学研究科博士課程中途退学、教育学博士(東京大学)。名古屋大学教育学部助教授、名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授などを務め、2017年4月より同大学名誉教授。

専門はテスト理論、言語テスト。研究テーマは、項目応答理論における尺度の等化、日本語教育におけるテスティング、ラッシュ・モデルを用いたパフォーマンス測定の尺度化、言語能力基準の開発など。

主要論文に、『共通受験者デザインにおけるMean & Sigma法による等化係数推定値の補正』、『推定母集団分布を利用した共通受験者法による等化係数の推定』、『外国語としての日本語能力測定を支えるテスト理論』、『日本語能力試験における級間共通尺度構成の試み』、『Can-do statementsを利用した教育機関相互の日本語科目の対応づけ』など(いずれも共著)、主著に『組織・心理テスティングの科学』(白桃書房)、『テスティングの基礎理論』(研究社)、『組織心理測定論』(白桃書房)、『項目反応理論』(東京大学出版会)、『研究社日本語教育辞典』(研究社)など(いずれも共著・分担執筆)がある。

2011年度日本テスト学会学会賞を受賞。

 

日本経済新聞(2017年10月9日)掲載記事全文

異なる英語民間試験の結果、合否判断に使えず
「4技能」必要なら新テスト開発を

文部科学省が進める高大接続改革で最も注目されるのは現行の「大学入試センター試験」に代わる「大学入学共通テスト」である。中でも、英語試験の改革は大きな議論を呼んでいる。テスト理論、特に等化の問題を研究してきた者として、今回の議論は「共通テスト」と大学が独自に実施する「個別試験」との関係について議論が深まっていない点が気になる。

文科省は、2020年度から23年度までの4年間は、英語の試験は「共通テスト」とTOEFLやケンブリッジ英検など外部の民間団体が実施する大規模英語試験の中から大学入試センターが認定する「認定試験」とを併存させる方針だ。

しかし、議論の経緯を見ても、今のセンター試験はどこが問題で外部試験の導入で何が改善されるのか、各大学は複数の外部試験を他の教科・科目とどのように組み合わせて入学者選抜に用いるのか、ほとんど明らかになっていない。

現行のセンター試験は英語の「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能のうち「読む」「聞く」しか測定していない。「英語力」は4技能のバランスが大切なことは確かだ。ただ、だからといって本当に大学入試で4技能全て問う必要があるのか、もっと議論すべきではないか。

民間の英語試験は目的も異なれば、テストの仕様も異なる。どれが優れているかという問題ではなく、英語のどの能力を何のために測定するのかが、試験によって異なるのだ。そこで文科省は、複数の試験の測定結果を相互に対応付ける「CEFRの能力レベル対応表」を公開している。

CEFRは「欧州共通言語参照枠組み」と訳される。欧州域内の外国語教育専門家が、国や母語の違いを超えて、言語学習法や教授法、評価法に関して相互理解を深めコミュニケーションを促進する共通基盤を示したもので、04年に欧州評議会が260ページに及ぶ文書を出版した。

ここで注意すべきは、CEFRは異なるテスト間の測定結果を対応付けるものではなく、英語に限らず他の言語も共通に、学習者のその時点での言語能力をA1(学習を始めたばかりの者・初習者)からC2(母語話者と遜色のない熟練者)までの6段階で表すものだということだ。

従って、CEFRではフランス語、ドイツ語、中国語などの大規模試験も1つの表に入れることができる。なぜそのようなことができるのかというと、CEFRは個別言語で設定される「能力規準」ではなく、学習者の言語能力レベルのイメージを共有できるように、その言語を使って学習者に何ができるのか(Can-doステートメント)を示した「参照枠組み」だからなのだ。

このため、異なるテストの測定結果を6つのレベルに対応させることはできても、あくまでレベル間の対応であって、テスト間の得点の対応関係を保証しているわけではない。従って、テストの結果は得点ではなくCEFRのレベルで表すしかない。CEFRは、異なる試験の測定結果を比較可能な共通尺度上に表す「等化=得点の変換」はできないのである。

文科省の「英語教育改善のための英語力調査」の14年度調査結果によると、全国から無作為抽出した国公立高校の3年生約7万人(「話す」技能は約2万人)の英語力は、CEFRで「読むこと」がB2=0.2%、B1=2.0%、A2=25.1%、A1=72.7%、「聞く」ではB2=0.0%(5人)、B1=0.7%、A2=12.8%、A1=86.5%で、「話す」「書く」はさらに低い水準にとどまる。

調査対象者と大学入学共通テストの受験者層は全く同質というわけではない。それでも大部分の高校生が「基礎段階の言語使用者」であるA1・A2レベルに集中しているのは明らかだ。実力の差が見えないのである。複数の民間英語試験の測定結果をCEFRの6レベルで表示しても、大半が基礎段階の2レベルでは、入試で合否を判断する情報にはなり得ない。

こうした日本の英語教育事情に配慮して、A1からB2までの4レベルをさらに細かく分けたCEFR-Jが開発されてはいるが、実用に供せれるテストはまだない。

受験生は、高校で国の学習指導要領に基づく検定教科書を使って英語を学ぶ。一方、外部の大規模英語試験は学習指導要領ではなく、実施機関の理念に基づき開発される。こうしたテストが、日本の大学入学のための共通試験としての内容的妥当性を持ち得るのか、極めて疑問である。

外部英語試験を導入するのであれば、共通試験ではなく、各大学が教育理念や特色に応じて実施する個別試験で自校に合うテストを選択し利用すればいい。

大学入学共通テストは英語以外の教科・科目も合わせた全体として統一的な理念、構成、仕様のもとで開発・実施されることが望ましい。どうしても英語の4技能測定が必要ならば、民間の知恵や技術も導入しながら大学入試センターが新テストを開発すべきである。

 

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