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「大学入学共通テスト」試行調査への当社コメント

大学入試センターのホームページに、大学入学共通テストの「平成29年度試行調査の問題、正解表、解答用紙等」が公開され、世間の注目を集めています。

(外部リンク)独立行政法人大学入試センター:試行調査(平成29年11月実施分)の結果速報等について

2017年10月には、「平成29年度11月に実施する大学入学共通テスト導入に向けた試行調査(プレテスト)の趣旨について」が公開されており、その中の「2.試行調査の問題のねらいと形式」の「(1)問題のねらい」に、次のような記載があります。

(外部リンク)独立行政法人大学入試センター:大学入学共通テスト導入に向けた試行調査(プレテスト)について

高校教育を通じて、大学教育の基礎力となる知識及び技能や思考力、判断力、表現力がどの程度身に付いたかを問うことをねらいとしています。高等学校学習指導要領において育成を目指す資質・能力に準拠し、知識の理解の質を問う問題や、思考力、判断力、表現力を発揮して解くことが求められる問題を重視して出題しています。

難解な文章ですが、平たく言えば、「この度の試行調査で出題した問題は『大学教育の基礎力』とともに『高等学校で育成する力』の両方を問うている」ということでしょうか。そうであるなら、この度の試行調査に出題された問題が「出題のねらい」通りになっているのか、十分に時間をかけ、専門家の知見をふまえて検証しなければなりません(特に、テスト理論の知見は不可欠です)。この検証が十分でないと、大学入学共通テストが、大学が必要とする基礎力をみるうえで決して適切とはいえず、さらに、高校の先生方や生徒さんたちが(文科省の考えに沿って)懸命に身に着けようとした「力」を的確に問うているともいえないテスト、いうなれば、テスト実施者の「独りよがりのテスト」になってしまう危険性があります。これでは、受験生がいい迷惑です。
この度の入試改革が、大学入試の当事者である「受験生」不在とならないように、関係者の皆様には、多方面の専門的な知見を総動員して検討していただくように、改めて、強くお願いいたします。

以下、当社として国語、歴史(世界史B・日本史B)、理科(物理・化学・生物・地学)の試行調査に対するコメントを発表申し上げます。ご一読いただければ幸いです。

 

国語

【総論】
今回公表された試行調査(プレテスト)の国語の特徴は、【記述式問題の導入】、【図表や写真などの素材を使用】、【複数のテクストの比較】、の三点である。しかし、受験生の思考力・判断力・表現力を測定・評価するという目的にとって、こうした出題上の工夫が本当に有効に機能するのかどうか、疑問の余地が残る。

【記述式問題の導入】
第1問は3つの設問が全て記述式で、しかも、高校生にとって身近な話題(部活動のあり方)をめぐる会話文と複数の資料(部活動規約、アンケート結果など)をもとに、文脈の理解や資料の分析を問う問題となっている。今回の試行調査(プレテスト)では最も意欲的な出題だが、それゆえに課題も残る。
問1は「当該年度に部を新設するために必要な、申請時の条件と手続き」を五十字以内で書くという問題。冒頭の資料「生徒会部活動規約」の第3章第12条と第13条に部の新設条件と申請方法が明記されており、それを転記すれば約五十字になる。あえて記述式で解答させる意味があるか、疑問である。また、問3は「部活動の終了時間の延長」の提案を支持する根拠と、その提案を批判する側が挙げる根拠を「確かに~しかし……」という形式でまとめる問題だが、いずれの根拠も資料の中にあると明記されている。つまり、問1同様、記述すべき要素を資料から探し出すことが求められている。
思考力や判断力を問うのであれば、資料の中の情報に基づいて受験生自身が提案に賛成か反対かを論じさせたり、反対の意見の人をどう説得するかを論じさせたりするなど、小論文的な問題が適切なはずである。それでは多様な答案が出て、採点に時間がかかるので、解答の方向性が一つに定まり、採点しやすい問題としたのだとすれば、わざわざ記述式を導入せず、従来のマーク式のままで十分だったのではないか。はたしてこれで受験生の思考力や判断力を測ることができるのか、疑問に感じざるをえない。

【図表や写真などの素材を使用】
第2問は、評論の読解を問う問題だという点で従来のセンター試験第1問に該当する。ただし、素材が、2つの表と5つの図(うち4つが写真)を含む文章であるという点に特徴がある。さらに、本文に傍線や空欄が一切なく、その代わり、表中の語句の意味や、図や写真の解釈を問う問題が出題されている。従来のセンター試験は、文章を素材として用いて、傍線部説明問題や空欄補充問題によって読解力を問う問題だったので、大きな変化である。図表と本文全体との関連性をとらえた上で、総合的に情報を分析・解釈する思考力・判断力を問おうとしたねらいが見て取れる。
ただし、こうした工夫が思考力や判断力を測るうえで有効に機能するのかどうかは、現状では明らかでない。例えば、問1は表中の語句の意味を問う問題だが、従来のセンター試験でもこの種の問題は本文の語句に傍線を引くという形式で出題されていた。一見すると新しい出題形式だが、表を使用したからといって従来よりも思考力や判断力を深く測れているとは言い難いだろう。また、図(イラスト)に関する問題の問2が正答率61.2%なのに対して、写真に関する問題の問3は正答率が19.4%である。ここまで差が甚だしいと、学力を正確に測れていないのではないかと疑わざるを得ない。図表や写真を使用するという目新しさだけで満足するのではなく、今回の結果を分析し、問題の質を改善していくことが求められる。

【複数のテクストの比較】
第3問(小説)は、オスカー・ワイルド「幸福な王子」のあらすじと、その内容を踏まえて創られた小説が題材になっており、冒頭のあらすじの文章と、その後の小説との関係について問4で問題にしている。二つの文章は並列されているだけなので、どのような関係なのかを読み取ることは難しい。実際、正答率は18.6%と、第3問の中で最も低い。これは「本文中から正解の根拠を探す」という受験テクニックでは太刀打ちできなかったためだと考えれば、従来よりも深い思考力や判断力を問う問題になっていると言えそうだが、せめてリード文であらすじの文章とその後の小説との関係について触れておくべきではなかったかと考える。
複数のテクストを比較させる出題形式は、第4問(古文)・第5問(漢文)でも共通している。古文では、複数のテクストとして、二つの書写本と注釈書が取り上げられているが、書写本の異同は「専門家」にとっては必須の研究対象だが、それを読解の素材として受験生に課す必然性があるのだろうか。設問の難易度は従来のセンター試験と比べてもそれほど変化がないにもかかわらず、一様に正答率が低かったことを考えれば、素材として適切だったのか見直しが必要だと考える。
漢文でも同じように複数のテクストを使用している。問6では文章IIにおける〈コラム〉中の誤記指摘を問題にしているが、これは文章Iと文章II、そしてコラムを見比べながら考えさせる設問である。ここで問題なのは、このような問いを課すことでかえって受験生の思考が分断されてしまう恐れがあるのではないかという点である。これでほんとうに受験生の「思考力」なり「判断力」を問うことができているのか、客観的なデータによる検証が求められるところである。

国語という教科の中で、図表や写真、複数のテクストといった素材の目新しさは注目に値するが、問題を解くにあたっては表面的な読みでこと足りる設問が散見される。従来のセンター試験では、より深い「解釈力」を問うていたはずだが、今回の共通テストは、素材の扱いと設問の難易度という点で物足りなさが残る。今後の課題と言えよう。

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歴史(世界史B・日本史B)

今回の世界史B・日本史Bの試行調査(以下、プレテスト)では、資料・図表・写真などとともに、班別学習などの場面設定や会話文が多用されており、従来のセンター試験と出題形式が大きく異なったものになっている。また、設問を見ても、絵画と説明文から事象を判断したうえで年代順に並び替えるもの(世界史B 第3問 問2 [14])や、正解が複数あるうちから一つ選んだうえで(世界史B 第5問 問4(1) [28])、その解答と連動して関連する事象を選ばせるもの(世界史B 第5問 問4(2) [29])、複数の評価や考え方が提示される中で、その根拠や理由を判断させるもの(日本史B 第5問 問2 [19]、問3 [20]・[21])などのように、従来のセンター試験にはなかった新しい傾向の問題が見られた。
「平成29年11月に実施する大学入試共通テスト導入に向けた試行調査(プレテスト)の趣旨について」(独立行政法人大学入試センター)において、「用語に関する知識ではなく、事象の意味や意義、特色や相互の関連等に関する理解が求められています」とあるように、単なる歴史用語の暗記のみでは正解を導くことができないような工夫や配慮が見られた点については評価できる。しかしながら、これらの形式や傾向が新たな試みとしての意義はあるものの、大学入試問題として適切であるかについては以下の理由から疑義を呈さざるを得ない。

第一に、班別学習などの場面設定や会話文といった出題形式について、「次期学習指導要領で求められている学習のあり方に沿っている」と評価する意見が有識者のコメントに見られるが、テストの問題を学習方式や指導方式にあわせる必要性が果たしてあるのだろうか。また、会話文形式や身近なテーマを取り上げるといった表面的な工夫だけでは必ずしも「歴史と現在の日常生活を関連づける」ことにはならない。よって、この出題形式を採用する意義が感じられない。

第二に、受験生に「考えさせる」問題として今回のプレテストを評価する意見が見られるが、果たしてそうだろうか。例えば、世界史B 第6問 問2 [32]で、1932年のオリンピック・ロサンゼルス大会で参加選手が少なかった理由として、二つある正解のうち一つが「ヨーロッパ諸国の選手にとって、大陸間の移動が容易ではなかったため。」とされている。この解答での「主に問いたい資質・能力」として「知能・技能:1930年代の経済や交通についての理解」「思考力・判断力・表現力:資料から読み取った情報と歴史的事象との関わりを類推することができる。」と記述されているが、この正解を選び出すには一般常識があれば十分であり、知識も類推もほとんど必要ないうえ、世界史との関連性も乏しい。さらに、他の誤答選択肢に正誤の判断に迷う余地はほとんどないことからも、これが「考えさせる」問題とは到底思えない。
また、他の例として、日本史B 第2問 問2 [7]で、資料(「魏志」倭人伝)中の「下戸」が「考えたと思われること」として、「毎日の暮らしのことしか分からない自分には関わりがないことだ」を選択させているが(組合せ問題)、資料中で「関わり」云々を想起させる記述がなく、資料の正しい読み取りから逸脱した「空想」を正解としている。新しい傾向とする意見もあるかもしれないが、この問題からは「知識を活用して考えること」と「際限なく過去の事象を空想すること」を混同しているのではないかといった疑念を抱いた。大学入試での「考えさせる」問題として適切であるのか疑問である。

今回のプレテストは、「思考力・判断力・表現力」が具体的な問題として提示されるということで、要注目であった。しかし実際の問題を見ても、単なる知識の「理解力」しか問えていないものも多く見受けられ、社会科系科目における「思考力・判断力・表現力」というものがどのようなものなのか判然としなかった。むしろ、そもそも『思考力・判断力・表現力』はテストで測るべきものなのだろうか、日頃の授業や学習で養うべきものではないだろうか、といった疑問も抱かざるを得ない。
また、プレテストで提示された新しい出題形式や傾向が、出題する側にとって「斬新なもの」「思考力・判断力・表現力を問うもの」であったとしても、受験する側、すなわち学習する生徒たちにとって学習意欲が喚起されたり、暗記中心だった学習姿勢に変化がもたらされたりするようなものでなければ、従来のセンター試験と何も変わらないことになる。指導方針として「いかに考えさせるか」ということは確かに重要な点であるが、そのために必要なのは単に出題形式を目新しいものに変えることではない。むしろ、現在の世の中で起こっている様々な事象を深く理解するためには内外の歴史や文化、民族、宗教などを知っておくことが不可欠であり、そのために歴史をはじめとする社会科系科目を学ぶ必要があるということに重点を置いた問題作成を期待したい。

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理科(物理・化学・生物・地学)

【総論】
全体として、思考力・判断力を問う工夫がなされているが、表現力を問う問題は含まれていない。物理・化学・生物で出題された「縦軸と横軸を指定せずにグラフを描かせ、そこから読み取った数値を用いて計算させる問題」は、過去に例がなく、思考力・判断力を試す問題といえるだろう。しかし、これらの問題では、グラフをどう用いたのかがわからず、思考・判断の根拠やその妥当性を評価することはできないのではないか。これらの問題の多くは正答率が低くなっており、思考過程をブラックボックスにしたために難度が上がってしまったことと、出題形式に慣れていないことが大きく影響していると考えられる。
以下では、それぞれの科目のグラフを用いた問題について、具体的な問題点を挙げてみる。中には、グラフを使わせる必要があったのかと思わせる問題も見受けられた。

・物理の第3問 問5(正答率2.5%)
グラフを用いて鉄の比熱容量を求めさせる想定であるが、鉄の比熱容量はグラフを描かなくても、チタンと銅の比熱容量から類推できるので、グラフを用いたかどうかはわからない。

・化学の第1問 問4 b(正答率4.6%)
aの問題で凝固点をグラフの直線部分の交点の値から推定させる意図があると思われる。しかしながら、aの選択肢のどれを選んでも、bの計算が合っていれば正解としているため、グラフを用いなくても、単にモル凝固点降下の求め方を知っていれば正解できてしまう。

・生物の第5問 問2(正答率13.1%)
表の値からグラフの縦軸・横軸をどうとるかが明白で、グラフを描かせ、数値を読み取って計算させる問題としてはよくできている。ただし、グラフをどうやって用いたかは判断できない。

・地学の第3問 問2(正答率11.1%)
第3問 問1(正答率58.3%)は、飽和水蒸気圧と温度のグラフから26℃における飽和水蒸気圧を読み取って湿度を計算させる問題だが、これは従来の問題と大きな違いがなかったため、よく解けていたものと思われる。しかし、正答率の低かった第3問 問2(正答率11.1%)は、グラフの概形から関数の形を類推させる問題で、消去法でしか正解を選べないのではないか。

従来の問題でも、解法が一定のパターンに制約されるものの、理解度を把握するには十分なものであったと考えられるが、今後、こうした出題を続けるのであれば、発想の自由度をある程度保ちつつ、思考過程をきちんと評価できるような出題形式を研究し、工夫していく必要があるのではないか。

【過去問の流用】
物理の第1問、化学の第1問 問2、地学の第5問 問6など、大学入試センター試験の過去問を流用している問題がみられた。また、生物の第2問、地学の第1問 問1および問4など、リード文に多少の修正を加えただけで設問内容を流用している問題もあった。従来の問題との併存に関して調査する目的があった可能性もあるが、科目により流用問題の割合も異なり、流用している事実やその理由に関する公式なアナウンスは見受けられない。過去問の流用は、大山鳴動して鼠一匹という印象を与えかねず、従来の出題に問題がないのであれば、なぜ新しいテストが必要なのかと疑問を持たざるを得ない。

【対話型の出題形式】
各科目とも対話型の出題形式を多用して、日常生活とのつながりを意識した問題が多く出題されている。一方、地学の第1問のように、強引に冒頭の1文のみを日常と結び付けるだけで以降は従来の出題内容と変わらないといった付け焼刃の対応と思わざるを得ないものもみられた。

【複数正解のある選択形式】
物理・化学・地学で「適当なものをすべて選べ」といった複数正解のある問題が出題されている。「ただし、該当するものがない場合は選択肢0を選べ」といった注意書きが加えられているものもある。従来どおり、複数の語句の組合せを選ばせる形で出題されている問題も混在しているが、このような複数正解を求める問題は悪戯に難度を上げるだけではないだろうか。こうした出題形式に変更したからといって、思考力や判断力が問えるようになるとは考えにくい。物理の第3問 問1および問2や、化学の第1問 問4 bなどの計算問題で、従来、数値を選択肢の中から選択させる形式が、数学と同様の数値代入形式になった。数値を選択肢の中から選択させる形式は識別力が低くなりがちなので、この点は改善されたと考えられる。

【曖昧な問い方】
物理と生物の一部の問題で、「物理法則に反するもの」、「合理的な推論として適当なもの」、「合理的でない推論を過不足なく含むもの」などを選ばせる問題が出題されている。今回の問題は特に問題ないものの、こうした問い方は、どんな物理法則に反するのか、何をもって合理的な推論と判断すればよいのかが曖昧となり、正解の根拠自体も曖昧になる可能性がある。

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