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「大学入学共通テスト」第2回試行調査への当社コメント

大学入試センターのホームページに、2018年11月に実施された「大学入学共通テスト」の試行調査に関する情報が掲載されています。その中の「趣旨及び概要」に、問題作成の方向性として、次の3点が挙げられています。

  1. 大学入試センター試験における問題評価・改善の蓄積を生かしつつ、共通テストで問いたい力を明確にした問題作成
  2. 高校教育の成果として身に付けた、大学教育の基礎力となる知識・技能や思考力、判断力、表現力を問う問題作成
  3. 「どのように学ぶか」を踏まえた問題の場面設定

以下、上記の問題作成の方向性もふまえつつ、今回の試行調査について、教科別に弊社のコメントを掲載いたします。

 

英語

 【全体として】
前回の試行調査(以下、プレテスト)同様に、大学入試センター試験(以下、センター試験)では出題されている「発音・アクセント問題」、「文法問題」、「整序作文問題」等が消え、完全に「リーディング」に特化した試験構成になっている。前回のプレテストから変更になったところとして、「リーディング、リスニングが各100点」という配点になっている。4技能の均等性(今回の試行調査ではリスニングとリーディングの2技能だが)を意識した作りになっているといえる。

【試行調査の中身について】
「本文の表現の言い換えをきちんと理解しているか」(第1問 A)、「与えられた情報を読み取り、必要な情報を抽出できてきるか」(第1問 B)など、これまでのセンター試験を踏襲したオーソドックスな問題がみられる一方で、意見(opinion)か事実(fact)かを判断させて解かせるような新傾向の問題(第2問 A)もあり、新旧の良問がバランスよく合わさった試験問題であるといえる。ただ、「与えられた情報を読み取る」という点で、いささか情報が多いような印象を受ける。「限られた時間の中で英語の情報を選択して答える」ことも「英語の力」といえばそれまでだが、「情報の取捨選択による受検生への負荷」は(大学に入るために必要とされている)英語の力を測る上でノイズになっているのではないか。また、題材としては「学園祭に関するプログラム」や「プレゼンテーション」など「学生の生活に密着した」テーマが多く出題されている。ただ、近年の時流というか、文科省の方針でもある「実用的なテーマ」に則った出題を否定はしないが、それありきで問題が作られている感じがある。そもそも何をもって「実用的」であるといえるのか、大学入試英語において「実用的な」要素は必要なのか、疑問が残るところである。作問側の立場からいうと、テーマという制限があるため、その中での作問はなかなか難しく、作問を今後作り続ける ―作問持続性というべきか― という点では(いずれ民間試験に完全移行することが決まっているにせよ)不安が残る。ただ、先にも述べたように、センター試験にこれまで出題されてきているような、よく練られた問題が多いので。「民間試験に頼らずとも良質な試験を作り出せる」という大学入試センター側のメッセージも感じ取れる。
  
【CEFRについて】
プレテストにおいて最も気になるところといえば、「問題のねらい、主に問いたい資質・能力及び小問の概要等」に記載されている「CEFRレベル」である。そこには設問ごとに「A1程度など」と記されているが、CEFRのレベルは個々の設問に与えられるものではない。そもそもCEFRというのは「『このくらいの得点をとれた』ので『あなたのCEFRのレベルはB2」』です。だから、can do statementsにあるように『あなたはこういうことができます』」といったような、あくまで、一つの目安として考えるべきものなのである。また、日本の大学入試にCEFRが導入される背景として、「英語の国際標準規格」であるかのような誤った認識が存在する。あくまでCEFRというのは「ヨーロッパ言語共通参照枠」であり、英語だけの、しかも大学入試のような選抜試験を想定したものではないということを忘れてはならない。無批判的にCEFRを導入したり、資格のごとくCEFRを扱うことは非常に危険であるがゆえに、より慎重に検討を重ねていくべきであるといえる。

 

数学

 【全体として】
数学Ⅰ・A、Ⅱ・Bの両方にいえることとして、試験時間に対して問題の分量はかなり多く、全問を解ききることは難しい。思考力を問うのであれば受検生が考える時間が確保できる分量にすべきではないだろうか。問題文の文章量や情報量については、かなり多かった第1回試行調査に比べれば改善されているものの、より簡潔な表現にできる余地は残っている。問題に取り入れられている会話が、受検者のヒントになったり、思考を促したりするようなものになっている一方、単に問題文を冗長にしているものも見受けられたため、この部分は改善する必要がある。現実に即した状況設定を前提とした問題には、数学を活用して解決する力を測るという姿勢がはっきりと表れてはいるが、現実的に不自然な設定にならないようにすることと、今後の問題に用いられる題材の確保が課題である。

数学Ⅰ・A

第1問
〔1〕(1)は集合に関する記号の使い方を問う問題であるが、正解例として示された解答に比べて解答欄が大きいため、様々な解答が生じる可能性がある。例えば、自分で記号を定義して、「 B は1のみを要素にもつ集合とし、集合 X、Y に対して X<Y で X が Y の部分集合であることを表すものとすると、 B<A 」などと解答することも可能である。(2)は無理数の集合が和について閉じていないことを示すための例を答える問題で、論理的思考力を問うのに好適な題材であるといえる。

〔2〕グラフ表示ソフトを登場させ、2次方程式や2次不等式の解について考察する問題。方程式や不等式を単に解かせるのではなく、(2)「『不等式 f(x)>0 の解がすべての実数となること』が起こりうる操作」を答えさせるなど、センター試験とは異なった趣の問いになっている。しかし、〔2〕全体はグラフ表示ソフトがなくとも問える内容であり、わざわざソフトを持ち出す意味はどこにあるのだろうか。

〔3〕学校の階段を題材とした問題で、現実に即した状況設定にしようとした意図はよく見える。しかし、長い文章から問題を解くのに必要な情報のみを抽出したり、「蹴上げ(けあげ)」、「踏面(ふみづら)」といった単語の意味を図から読み取ったりすることは、果たして数学の力といえるのであろうか。また、記述問題である本問の正解は

              

であるが、この最終的な結果のみを記述させる意味はどこにあるのか疑問である。さらに、
        

だけを答えた回答は不正解としてよいのだろうか。問題文にあいまいさが残ってはいないだろうか。

〔4〕正弦定理の証明を穴埋め形式で追っていく問題。きちんと流れに沿って自然に解くことができるが、太郎さんと花子さんは構想のみの登場で、特に会話があるわけでもないため、あえて二人を登場させる必要性が感じられない。 

第2問
〔1〕動点の動きや三角形の面積等を関数で表して考察する問題。(ⅱ)の「線分PRの長さとして、とり得ない値、一回だけとる値、二回だけとる値」を選ぶ問題は、グラフをうまく利用する力が求められ、思考力を試すよい問題である。

〔2〕相関係数についての問題。データの分析に関する基礎的な問題も入っており、この単元に関する総合問題としてはよくできている。

第3問
2人がくじを順番に引くという設定で、2人目の人が当たる確率を大きくするにはどのように引けばよいかを考察する問題。問題の設定や誘導は適切であり、条件付き確率の考え方を全体的に用いて考察を進めていく部分に面白さもある。

第4問
天秤ばかりとおもりではかる物体の質量について、不定方程式の知識を使いながら考察する問題。後半にかけて適度に難度が上がっており、思考力をきちんと問える問題になっている。ただし、天秤やおもりに結び付けないほうが話が簡潔になる箇所もあり、問いたい数学的な内容に対して、現実に即した状況を後付けしたかのような違和感がある。

第5問
三角形の3つの頂点からの距離の和が最小となる点を求める問題。題材は共通テストのテーマとしてはやや難しめと思われる。本問に挿入されている会話に関しては、解く上でのヒントとなる内容が自然な形で含まれており、一定の意味をもっている。とはいえやはり、ヒントをもとに考えたとしても正解に至ることは難しく、同じテーマの問題に触れた経験があるかないかで差がつきやすい問題になっているのではないか。


数学Ⅱ・B

第1問
〔1〕(1)は三角関数の定義が問われており、単なる公式や定理の暗記ではない、三角関数についてのしっかりとした理解が要求されている。定義から公式まで幅広く問う構成になっている。
〔2〕(1)、(2)は f' (x)  の形から f(x)  を求めさせる問題で、誘導も丁寧である。(3)は定積分の定義が問われており、定積分と面積の関連性、定積分の定義をきちんと理解しているか問う問題としては適切である。
〔3〕対数の定義、対数ものさしを題材とした問題。現実との関連はあるが抽象度は高い。(ⅳ)の「実行できる」計算を選ぶことは、前問までの結果の使い方を考えなければならず、正解に至るには思考力を要する。

第2問
〔1〕線形計画法の問題。x、y が0以上の実数の値をとる場合と、0以上の整数の値しかとらない場合とで結論がどう違うかを考えさせる問題であり、線形計画法を題材とした思考力を試す問題として適切であった。(ⅱ)は領域の定義を問う問題であるが、「二つ選べ」ではなく、第1問〔3〕(2)(ⅳ)のように、「すべて選べ」として、すべての選択枝について考える必要があるようにした方がよかったのではないか。
〔2〕軌跡をテーマとした問題。(2)は題意がつかみづらい。単に軌跡を求める方法を知っているだけでなく、その場で問題の意味を考える思考力が要求される。

第3問
確率分布と統計的な推測の分野からの出題。大学入試センター試験(以下、センター試験)と比べて、題材が現実により即したものになってはいるが、出題内容は大きく変わるものではない。

第4問
数列の漸化式の問題。太郎さんと花子さんの会話は特に何らかのヒントになっているわけではなく、単なる流れで挿入されている印象である。シンプルな誘導文にしたほうが、余計な情報を受検者に与えなくて済む。漸化式の解法を複数要求するところは、これまでとは少々異なっているが、さほど代わり映えがせず、計算量が多くなるデメリットの方が大きい。受検者には、同じことを何度もさせられているという印象を与えるのではないか。

第5問
ベクトルを利用して、図形のなす角を考察していく問題。(1)(ⅲ)では解答の方針を問題で2つ与えており、どちらでもよいので実行してみよ、という流れになっている。複数の方針を与えているという点は、これまでのセンター試験では見られなかった点である。一方、(2)(ⅰ)では方針2を用いるように誘導があるが、このような問題では、先にどちらの方針を選んだかによって、その後の問題を解くにあたって有利・不利が生じないような配慮が必要である。

 

国語

これまで弊社では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)における国語のモデル問題例及び試行調査(以下、プレテスト)に対して、2回コメントを発表している。そこでは、サンプルとして提示された問題について、受検生の「思考力・判断力・表現力」を測定・評価するためのテストとしては、まだ克服すべき課題があるのではないかという指摘をおこなった。今回のプレテストについては、各教科さまざまな意見が飛び交っているようであるが、ここでは共通テストにおいて導入が決まった、国語の第1問・記述式問題に焦点を当てて論じることにしたい。

今回の記述式問題についての大きな変更点は、素材文が「契約書」や「部活動規約」といった匿名の書き手による「実務的な文章」ではなく、「ヒトと言語」に関する二つの署名つきの文章からの出題となったことである。おそらくこれは、「入試国語」としての連続性を維持・継承しようとしたのではないかと考える。大学入学後に必要となる読解力を測るという点からも、今回のように、ある程度専門的な内容についての理解を問えるだけの素材文が望ましいと考える。

設問に目を向けると、問1~問3にかけて徐々に字数を増やすことで難易度を上げている。はじめは比較的短い字数で書きやすい問題を課し、問2、問3へと進むにつれて難易度を上げていくのは入試の常道である。ただ、今回もっとも気になるのが、それぞれの問に対して、三つの正答例があがっているが、はたしてそれらを同じ「正答」として扱っていいのかということである。

もっともシンプルでわかりやすい例として、問1をみてみよう。

問1 【文章Ⅰ】の傍線部A「指差しが魔法のような力を発揮する」とは、どういうことか。三十字以内で書け(句読点を含む)。

これに対する「正答の条件を全て満たしている解答の例」を見てみると、

 例1 ・ことばを用いなくても意思が伝達できること。(21字)
 例2 ・指さしによって相手に頼んだり尋ねたりできること。(24字)
 例3 ・ことばを用いなくても相手に注意を向けさせることができること。(30字)

とある。

この三つの正答例を見ると、例2では、例1や例3にある「ことばを用いなくても」という説明が不足しているのが見て取れる。では、例2のように、「ことばを用いなくても」に相当する説明はなくてもよいのだろうか。本文を読むと、「指差しが魔法のような力を発揮する」というのは、たとえことばが通じなくても、指差しを使えば相手とコミュニケーションができることを「魔法のような」と述べているのであるから、ここで前提となっている、「ことばを用いない」状況への言及は不可欠ではないかと考えられる。したがって、例1や例3のような解答であれば、傍線部の「魔法のような力」の説明として適切だといえるだろうが、例2のように、「ことばを用いない」ことへの言及が不足している答案を、例1や例3と同等とみなしていることに、疑問を感じざるをえないのである。

おそらく、国語という教科における記述式問題の難しさはここに存する。この難しさは、一枚一枚の答案を適切に差別化・点数化することに苦慮してきた多くの教員が感じる難しさでもある。さらに敷衍すれば、これは受検生が記述問題を自己採点することの難しさにも通じる。採点者が労力と時間をかけて慎重に採点をしているものが、いくら自分の答案とはいえ、受検生に容易に判断できるかといえば、そうはいくまい。自分の答案であるがゆえに、かえって甘すぎたり厳しすぎたりするのである。

ところが、今回示された正答例および正答の条件は、そういった難しさを一様に均してしまうことで、より適切に設問の意図に応えようとしている答案とそうでない答案との差異を薄めているようにみえる。問1だけでなく、問2、問3の正答例や正答の条件を見て、教員の中には、これでは受検生間の学力差が正当に評価できないと感じる向きも出てくるだろう。受検生にしても、問1で例1や例3に近い解答を書いた者は、例2の解答が自分の書いた答えと同じ扱いであることに不信感を抱くかもしれない。

こういった指摘をすると、「大規模テストにおける記述問題は、採点が大変だからこの程度で十分だ、仕方がない……」という声が聞こえてきそうである。だが、ほんとうにそれでいいのだろうか。

ここで、この点に関わるもうひとつの問題点を指摘しておきたい。今回、国語の記述式の採点に関しては「段階」評価となっている。しかしながら、上述のように、答案の質的な差異を無視して、大まかな評価でよしとすることで問題はないのだろうか。というのも、すでに一部の大学で、ここでの「段階」評価は合否判定に使わず参考程度に留めるとしているところがある。ここからも今回の記述式問題に対する大学側の不安をうかがい知ることができるのではないだろうか。

もちろん、限られた時間の中で書かれた答案に対し、細かいところで目くじらを立てても仕方がない、大規模テストなのだから、1点刻みで点数化するより「段階」別による評価で十分であるといった考え方もあるだろう。しかし、その程度のテストであるならば、受検生はそこに自らの思考力や判断力、表現力をフルに働かせることをせずに、他のマーク式の問題に時間を使って高得点を目指そうとするはずである。そして、彼らがそうすることを誰も責めることはできない。共通テストのような大規模テストで記述式問題を導入することが困難を極めることは、当然予測されたことである。それにもかかわらず導入するというのであれば、わたしたちは受検生の学力を適正・公平に測ることのできるテストを追い求めるべきではなかろうか。

 

世界史

2017年11月に実施された1回目の試行調査(以下、プレテスト)では、従来の大学入試センター試験(以下、センター試験)と異なる形式が提示され、さらに今回の2回目のプレテストにおいても、基本的には前回のプレテストの出題形式や設問形式が引き継がれている。従来のセンター試験は、各大問につき3つのリード文があり、リード文中の下線部に対応した設問が出題されてきた。写真・地図・グラフの使用は少なく、設問の形式は文章選択が中心であった。これに対して、前回のプレテストでは、各大問に班別学習や授業中の会話文など生徒の学習過程を意識した場面設定が多く取り上げられた。写真・地図などの図表が多用され、設問の内容についても、写真・地図・資料に関連した問題が出題された。組合せ問題も多くなり、文章の組合せ問題や正解が一つに限らない設問などセンター試験には見られない新しい傾向が示された。
一方で今回のプレテストには、前回のプレテストを引き継ぎつつ、前回から変更・改善された点が見られる。センター試験や前回のプレテストと比較すると、今回のプレテストは以下の点で特徴的である。

(1) 問題全体
2018年度センター試験の分量は、大問数4、解答数36、ページ数24であった。前回と比べた今回のプレテストの分量は、大問数が6→5、解答数が36→34、ページ数が41→31に減っている。今回のプレテストの解答数はセンター試験より2つ少ないものの、問題全体の分量はセンター試験より多いと言える。
大問の出題形式は、従来のセンター試験ではリード文形式のみ採用されてきたが、プレテストでは多様な出題形式が採用されている。今回のプレテストでは、生徒の学習過程を意識した場面設定は前回よりも少なく、第1問 C、第2問 C、第5問の3箇所で出題されている。またリード文についても従来のセンター試験とは傾向が異なり、今回のプレテストでは文中の下線部の事項そのものを問う設問や文中の空欄を問う設問が多い。
(2) 特徴的な設問
前回、今回のプレテストともに、従来のセンター試験と同様の文章選択や正誤の組合せ選択などが出題される一方、以下のようなセンター試験とは異なる傾向の設問が見られる。
① 資料を使った設問
2018年度センター試験で写真・地図・グラフ7点が使用されたのに対し、前回のプレテストでは写真・地図・表・家系図・グラフ32点と歴史史料8点、今回は写真・地図・表・グラフ18点と歴史史料7点が使用されている。プレテストでは、これらの資料を使った新しい傾向の出題が多く見られる。さらに今回のプレテストでは、前回よりも資料を読み取って解答することが必要な設問が多くなっている。今回のプレテストの設問を、例として3つ取り上げる。
・地図を使った設問
第1問 A(問1~3)で、人の移動を矢印で示した地図をもとに、諸地域世界の接触・交流を扱った問題が出題されている。従来のセンター試験では固定的な地図と地域と時代を問う問題が中心であり、この設問のように時代や地域をまたいで「人の移動」を問う出題は新しいと言える。
・グラフを使った設問
第1問 問7で、カナダの第一言語(母語)の比率を示したグラフを読み取り、比率の高い母語に関連した要因を選択する問題が出題されている。グラフに示された比率を判断することが設問と直接結びついている形式は、センター試験ではあまり見られない。
・歴史史料を使った設問
第2問 B(問4~6)で、宮崎滔天『三十三年之夢』という文語体の史料に基づく問題が出題されている。おそらく初見である史料から読み取った内容を、世界史の基本事項と結びつけるという、思考力を問う出題が意識されている。ただし、この設問は、史料が文語体の文章で読解が困難であることと、問6は史料の読解のみで解答できることから、世界史の内容として適切とは言えない面もあり、改善の余地が残る。
② 正解が一つに限らない設問
今回のプレテストでは、複数の正解から一つを解答し、選んだ解答に連動して次の問いに解答する設問が、前回に引き続き出題された。今回のプレテストの第4問 問2は、(1)でポーランド分割に関する風刺画に描かれた国と君主の組合せを選び、(2)で(1)で解答した国に関する歴史を三つ選択して年代順に並べかえるというもので、前回のプレテストよりも複雑な形式となった。
(3) 出題範囲
前回のプレテストと比べると、今回のプレテストでは、初見の資料が使用されている場合でも、多くの教科書に記載のある基本事項が出題されており、教科書を基本に学習した知識をもとに判別できる問題が多くなった。また、今回のプレテストでは前回よりも幅広い時代・地域から出題されるようになり、センター試験の出題範囲により近いものとなっている。

以上を踏まえて、今回のプレテストについてまとめたい。
今回のプレテストの難易度は、前回のプレテストよりも高いと考えられる。前述のように、前回より分量が少なくなり、基本事項の出題が多くなったとはいえ、リード文の読解や資料の読み取りなど解答に時間がかかる問題が多くなり、複雑な形式の問題(第4問 問2(1)(2))もある。現行のセンター試験と比べても、難易度は高めだと言える。
今回のプレテストのねらいは、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)で問いたい能力「大学教育の基礎力となる知識・技能や思考力、判断力、表現力」を問うことである。今回のプレテストでは、授業中の会話という場面設定や資料が設問に活かされており、「思考力・判断力・表現力」を問おうとする意図は感じられる。しかし、大学教育の基礎力となる「思考力・判断力・表現力」を問うために、センター試験を一新したテストを実施すればよいのかと言えば、それには疑問が残る。
「思考力・判断力」については、現行のセンター試験でも問えないわけではない。「学習指導要領・教科書に沿った基礎的・基本的内容」を中心としつつ、「思考力」を問うことはセンター試験の問題作成の方針に挙げられており、例えばセンター試験の文章選択問題では、複数の知識を活用して選択肢の正誤を判定するという「思考力・判断力」が必要だと考える。また、現行のセンター試験の出題形式のほうが各時代・各地域を網羅した内容を扱いやすく、幅広い世界史の事項について考察できるという一面もある。
「表現力」は、現行のセンター試験で問うことは難しいが、今回のプレテストでも十分に問うことができているとは言いがたい。例えば、今回のプレテストの大問5 問3(授業で生徒が作成したパネルを選ぶという設問)は「考察したことや構想した過程や結果を、理由や根拠に基づいてまとめることができる」という、いわば「表現力」を問うことをねらいとしている。しかし、あらかじめ選択枝が提示された客観式の設問で「表現力」を問うことは難しい。本来、「思考力・判断力・表現力」は授業を通して発揮されるものであり、特に「表現力」が身についたかどうかをテストで問うには限界がある。仮に記述式を導入したとしても、限定的にしか問うことはできないだろう。
「思考力・判断力・表現力」のすべてを共通テストで問おうとするのではなく、授業で問うべきこと、テストで問うべきことを明確にし、受検生の能力を適切に測る方法についても検討の余地があるのではないだろうか。

 

日本史

 【1.大問の形式について】
昨年度に続き、今年度の試行調査においても、高等学校の授業における学習(指導)形式を採用した大問が複数みられた。気になるのは、そのような大問のなかに、「現代につながる諸課題について自分の意見を形成する場面」や「新たな課題を見いだす場面」といった場面設定の工夫が十分にみられないうえ、場面の設定自体を目的としているかのような大問が散見されたことである。とくに第3問や第5問は、生徒が作成・整理したレポートやメモをもとに設問が構成されているが、レポートやメモという形式をなかば強引に採用してまで「授業改善のメッセージ性」をうたうことにどれほどの意義があるのか、疑問を呈さざるをえない。
現在の大学入試センター試験(以下、センター試験)では、特定の時代・テーマに関するリード文を採用する大問の形式が主流となっている。リード文形式は、設問への誘導の仕方などに課題を残す形式であるのは事実だが、これまでの試験のなかで蓄積されてきた有益な知見も存在しているはずである。もし、「改革」の名のもとに現在の形式を全面的に変更する必要があるのであれば、少なくとも、現在の形式では実現しにくい性質の設問を導くことができるような工夫をするなど、変更したことに意義があると評価されるような形式となるよう努めるべきではないだろうか。

【2.設問の内容について】
今回の試行調査では、複数の史料から関(関所)の役割の変化を読み解かせる、第2問の問4のような質の高い設問が含まれており、また、前回の試行調査と比較して、史料の正しい読み取りから逸脱した「空想」に関する設問などのいわゆる「奇問」が少なくなっている。これらは改善点として評価すべきであろう。
他方、対外関係などのテーマごとに日本史の大まかな流れを理解し、史料を正しく読み解くことができれば、日本史の知識がなくとも正答を導くことが可能な設問が多くみられるのも事実である。歴史用語に関する知識を問う設問や、これまでの日本史教育のなかでテーマ史の主流であった政治史に関する設問は、ほとんどみられない。
本来、日本史の「思考力、判断力、表現力」の前提となるのは、日本史に関する十分な「知識・技能」のはずである。しかし、試行調査の設問をみる限り、センター試験よりも積極的に史料を活用することで「思考力、判断力、表現力」を問おうとする意図はみられるものの、結果としてただ史料の数が増えただけで、「思考力、判断力、表現力」の前提であるはずの「知識・技能」に対する意識は非常におろそかになっているように感じる。日本史に関する十分な「知識・技能」に裏打ちされない「思考力、判断力、表現力」は、本来あるべき日本史の「思考力、判断力、表現力」とは程遠い、非常に表層的なものにとどまってしまうのではないかとの疑念を抱かざるをえない。
なかには、日本史に関する十分な「知識・技能」を前提としていないがゆえに、そもそも日本史の設問とみなせるのか疑わしい設問も存在している。たとえば、第1問の問1(年表の主題)は年表を読めば解答は容易に導けるし、第6問の問1(夏目漱石の説明)はリード文のなかに解答の手がかりが十分に記されている。とくに後者は、日本の近代文学の展開についての理解を求めているものだが、それらの理解が、解答するうえでの必要条件として機能しておらず、まるで現代文の読解問題のような設問になってしまっている。
大学入学共通テスト(以下、共通テスト)で求める日本史に関する「知識・技能」と「思考力、判断力、表現力」の関係を、共通テストを実施するまでに今一度整理しなおす必要があるのではないだろうか。

【3.総括】
前回と今回の試行調査をみる限り、共通テストの日本史の内容に関して、大きく2つのことが予想される。
1点目は、日本史に関する十分な「知識・技能」を必ずしも前提としない内容が多く含まれる可能性が高いということである。それで果たして、日本史に関する「思考力、判断力、表現力」を適切にはかることができるのだろうか。大いに疑問である。
2点目は、センター試験の日本史の内容と性格を大きく異にするものになる可能性が高いということである。大学入試センターは、共通テストの問題作成にあたり、大学入試センター試験における問題評価・改善の蓄積を受け継ぐとしている。しかし、実際には、試行調査におけるリード文形式の不採用や歴史用語に関する知識を問う設問の大幅な減少に象徴されるように、共通テストとセンター試験の間には、大きな隔絶が存在することになるだろう。
大学入試センターが追い求めている「思考力、判断力、表現力」を意識した設問は、改良を重ねてきたセンター試験の大問の形式や設問の内容をベースに実現することも可能と思われる。しかし、2回の試行調査をみる限り、大学入試センター試験におけるこれまで積み重ねてきた知見がそれほどいかされない方向に舵がきられるように感じられるのは残念である。

 

地理

今回の試行調査(以下、プレテスト)には、現行の大学入試センター試験(以下、センター試験)からの大きな変更点は見られない。
大問構成を見ると、センター試験と同様に、学習指導要領の区分に沿った「自然環境」「産業・資源」「人口、都市・村落/生活文化、民族・宗教」「地誌」「地図の活用と地域調査(地形図)」の各分野から出題されている。ただ、センター試験では「地誌」から2大問が出題されているため、プレテストでは大問が1つ少ない。このためプレテストの難易度は、センター試験よりやや下がっていると言えるかもしれない。
出題形式には、これまでのセンター試験でも出題されてきた、会話文や課題研究といった受検生に身近な場面設定が見られる。前回のプレテストと比べるとこのような場面設定は少なくなり、今回は第3問(文化祭で発表する展示資料の作成)と第5問(大分市と別府市の地域調査)の2大問で、問題に適した場面設定が採用されている。これと併せて写真や地図などの図版点数が調整されたため、前回よりもページ数は6ページ減少している。
設問についても、ほとんどがセンター試験で出題されているのと同様の形式の問題である。しかし、前回は「すべて選べ」(第5問 問4)、今回は「二つ選べ」(第4問 問2、問6)という、センター試験には見られない新しい形式の問題が見られた。

従来のセンター試験は単なる知識の暗記だけでは対応できず、知識や技能をもとに統計資料や地図に示された情報を活用するという、地理的な思考力・判断力が必要とされている。このため「思考力・判断力・表現力」を問うことを想定したプレテストは、センター試験の延長上にあると考えられる。実際、今回のプレテストでは、センター試験をさらに発展させたと感じる問題が見られる。例として、以下の2問を取り上げる。
・第3問 問5
トウモロコシの伝播についての問題である。農産物の原産地や生産国についてはこれまでも出題されているが、地図をもとに「伝播経路」をどのように示すかを問う問題は、新しい形式である。
・第5問 問4
「(リョウさんが)『なぜ大分市で保育所不足が生じたのだろう』という問い」をもち、仮説を立てるにあたって必要となった資料を選ぶ問題である。
設問文で統計資料をもとに仮説を立てるというアプローチを示すことにより、地理的な思考力を問うという趣旨が明確になる工夫がなされていると感じた。

その一方で、さらなる改善が見込めそうな問題もある。例として、以下の2問を取り上げる。
・第1問 問1
この問題では、地理に関連する身近な技術としてGIS(地理情報システム)を取り上げている。教科書でも扱われる新しい技術に積極的に触れている点は評価できるが、海岸地形の特徴を問うこの問題では、GISで作成した地図を使用する必要はない。GISを取り上げるなら、これに直接関連する問題を出題してもよかったのではないだろうか。
・第4問 問5
ニュージーランドとカナダの移民数に関連する統計資料をもとにした、文章の空欄補充問題である。P~Rの空欄のうち、Pに当てはまるニュージーランドとオーストラリア・サモア、カナダとアメリカ合衆国が地理的に近いという文を選ぶのは容易である。Pを特定すると、残りのQとRは、文章の流れから当てはまる文を判断できるため、地理の能力を測っているとは言えない面がある。

今回のプレテストは、地理的事象についての理解(「知識」)や地図・地理情報の読み取り(「技能」)をもとに考察することが必要な設問が大半を占め、単に「知識・技能」を問うことを意図した設問は3問(第1問 問4、第2問 問2、第5問 問1)だけであった。
プレテストおよび大学入学共通テスト(以下、共通テスト)では、大学教育の基礎力となる「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を問うことをねらいとしている。前述のように、さらなる改善が見込めそうな問題はあるものの、今回のプレテストでは大学教育の基礎力となる力をおおむね問うことができているのではないかと考える。
また、前述のように今回のプレテストと現行のセンター試験には大きな違いがない。このため、共通テストで問いたい内容の多くは、現行のセンター試験でも問うことができているのではないだろうか。今回のプレテストの方針で共通テストが実施されるなら、現行のセンター試験からの大きな変更が見られないという点で、受検生にとっては共通テストに向けた新たな対策などの負担がさほど大きなものにはならないと思われる。地理Bについては、センター試験から共通テストへの移行は、比較的スムーズに進む可能性がある。

 

政治・経済

今回の政治・経済の試行調査(以下、プレテスト)の特徴の一つは、大問ごとのリード文がないことである。
現行の大学入試センター試験(以下、センター試験)は、大問ごとに900字程度のリード文が提示され、その上で、文中の語句に関する知識を問うたり、文中の空欄に語句を補充したりするという出題形式である。一方、今回の試行調査では、従来のリード文に該当するものがなく、代わりに、設問ごとに、文章や図表が提示されるという出題形式が採用されている。
これは大学入学共通テスト(以下、共通テスト)における問題作成の方向性を意識した結果と考えられる。大学入試センターによれば、共通テストでは「知識の理解の質を問う問題や、思考力、判断力、表現力を発揮して解くことが求められる問題を重視」するとのことである。これに対し、従来のセンター試験は、リード文を読まなくても、個々の設問の指示と選択肢を見れば、知識(教科書の重要事項の暗記)に基づいて解答できる問題が多かった。そこで、共通テストを意識した今回のプレテストでは、設問ごとに文章や図表などの資料を付して、受検生に資料の読解・理解を求めようとしたのだと考えられる。
では、そうした試みはどの程度成功しているのだろうか。
今回の問題の中で思考力・判断力を問うのに適切だと思われるのが、第1問の問6である。資料として、地方自治法の抜粋、都道府県と市町村の部門別の職員数を示した2つのグラフ、道府県税と市町村税の収入額の状況を示した2つのグラフが与えられ、都道府県(道府県)にあてはまるものを問うという問題である。部門別職員数のグラフや税の種類別の収入額のグラフは教科書では扱われておらず、ほとんどの受検生にとって初見であっただろう。教科書には税の種類が表の形で示されているので、その知識に基づいて税の種類別の収入額のグラフを判別することは可能だが、部門別職員数のグラフは、教科書の知識を暗記しているだけでは判断するのが難しい。知識だけではなく、二つのグラフを比較し、その相違点に気づけるかが問われる問題であった。
また、第2問の問7は排出量(排出権)取引の問題だが、受検生に考えさせる要素が強い。排出量(排出権)取引は教科書で簡単に説明されているが、この問題では環境問題の原因物質の排出量を社会全体で年間100トンに減らすための4つの方法を比較し、どれが社会全体で最もコストが小さいかを選ばせるようになっている。排出量(排出権)取引についての知識があっても、一つ一つの方法についてコストがどうなるかを実際に計算しないと解答できないようになっており、思考力・判断力を問うことを意図してつくられたことがうかがえる。
他にも、第1問の問8(行政を統制する方法についての問題)は、政治・経済の知識を暗記しているだけで解答できる問題ではなく、表を読み取り考えることで正答を導き出す必要があり、思考力・判断力を問えるように工夫がなされている。
他方で、新しい試みが必ずしも成功していないように見える問題もあった。代表的なものが第1問の問3である。これは「過半数の賛成によって決めるのが民主主義だ」という考え方についての二人の生徒の議論を読んで、空欄に入る記述を選ぶという問題である。公表されている「問題のねらい」によると、この問題で「主に問いたい資質・能力」は「議会制民主主義における審議についての理解」「現実社会の諸課題を多面的・多角的に考察し、課題の解決に向けて、公正に判断することができる」となっている。しかし、実際には政治・経済の知識がなくても、文章読解力があれば正答することが可能である。
第4問の問7も同様だ。これは、生徒と父親がSDGs(持続可能な開発目標)の一つである「貧困をなくそう」という目標について話し合う会話文が示され、その文中の空欄に当てはまる日本のODAの重要な基本方針と、それと関連する資料の正しい組み合わせを選択させる問題である。しかし、これは政治・経済の知識がなくても、会話文の文脈から空欄に当てはまる選択肢が容易に判別できてしまう。これで本当に政治・経済の学力が測れるのか、疑問である。
このように、思考力・判断力を問おうと工夫した結果、かえって政治・経済とは関係のない学力で解ける問題になっているものが見られる。これらは今後改善の余地がある。
また、今回のプレテストでは、全ての問題が新傾向のものになったわけではなく、従来のセンター試験の出題形式と同様のものも多く残っている。第1問の問2や問7、第2問の問4、第4問の問3などはその一例である。あくまでも推測だが、従来の傾向の問題に解答できたかどうかと新傾向の問題に解答できたかどうかという成績の間にどの程度相関があるかを見ようという狙いで、あえて2つのタイプの問題を混在させているのではないか。だとすれば、今回の試行調査の結果を受けて、共通テストの出題形式に更なる改良・変更が見られる可能性がある。
最後に、今後の課題として、問題の分量について指摘したい。上述のような出題形式の変更の結果、今回の試行調査では、問題の実質的な総ページ数が従来の約30ページから42ページへと大幅に増加した。設問数は34から30に減少したが、読まなければならない資料が増えたため、受検生には一つ一つの問題についてじっくり考える余裕がなくなったのではないか。そのため、思考力・判断力よりもスピーディーな情報処理力が要求される。受検生の思考力・判断力を測るためには、資料の分量や設問数はどの程度が適切なのかについての検討が必要であろう。

 

理科(物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎)

 【総論】
物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎については、第1回試行調査では実施されなかったため、今回初めて試行問題が開示された。全体として、大問数については従来の大学入試センター試験(以下、センター試験)と同じで、実質的な設問数もほぼ同じだが、思考力・判断力を問う問題が増えたことにより、難度がやや高くなっている。第1回試行調査と同様、表現力を問う問題は含まれていない。物理基礎 第1問 問2、 生物基礎 第1問A、第2問B、第3問Bでは、リード文に会話文を用いた問題が出題され、化学基礎 第1問 問3(飲料水のラベル)、第3問 リード文(実験報告書)、地学基礎 第1問B(岩石の特徴をまとめた資料)、第2問B(未固結堆積物のレポートの一部)では、資料を提示して問う形で出題された。これらの問題からは、単なる知識の暗記ではなく、思考力・判断力を問うという明確な意図がうかがえる。

【物理基礎】
定性的な関係を問う問題が多く出題されており、これらは従来のセンター試験ではあまり出題されていない形式である。本質的な理解を問う良問が多いものの、第2問 問3の惑星表面という設定や、第3問 図3の温度の時間変化を示すグラフなど、必要のない情報を含む問題が散見された。なお、第2問 問2の正解選択枝が1.96となっているが、図2のグラフから有効数字3桁を読み取るのは難しい。たしかに「最も適当なもの」ではあるが、グラフの読み取り精度についても配慮すべきではなかろうか。

【化学基礎】 
第1問、第3問の「化学と人間生活」の単元に含まれる日常生活に関連した題材をテーマとした問題や、第2問 問2のように教科書に記載のない情報をもとに考察させる問題が出題された。これらは、複数の単元を融合させた総合問題となっている。第3問 問2のような、水酸化ナトリウム水溶液の滴下量が正しい量より大きくなった原因を考察させる問題は、従来のセンター試験ではあまり出題されていない形式である。

【生物基礎】
従来のセンター試験と比べて、考察問題や計算問題が増加し、生物の知識だけで解ける問題が減少したため、従来のセンター試験よりも難度が高くなっている。他の科目よりも、リード文に会話文を用いた問題が多く、問題を解くための情報量が多くなっている。特に正答率が低く、思考力・判断力を必要とする第2問 問6に関しては、二次応答における抗体産生量のグラフと勘違いした受検生が多かったのではないかと推察するが、リード文の「血清を二度注射すると、血清に対する強いアレルギー反応が起こるんじゃないかな。」という記述が受検生を混乱させた可能性がある。

【地学基礎】
従来のセンター試験と同様、地学基礎で学習する内容からバランスよく出題されているが、実験や探究活動に関する問題の比率が高くなっている。正答率が低かった第1問 問3(正答率12.1%)は、岩石の形成年代、種類、特徴をまとめた表をもとにして酸素濃度が急激に増加した時期を考察させる問題で、時期を覚えている受検生には簡単だが、この表の情報だけから判断するのは難しかったのではないか。第2問 問5(正答率38.8%)や第3問 問3(正答率56.9%)は、思考力を問う考察問題で、もっと正答率が低いのではないかと予想したが、適切な値に収まっている。

理科(物理・化学・生物・地学)

 【総論】
第1回試行調査と比べて、思考力・判断力を問う問題を残しつつ、問題数や各設問の難度を調整することで、全体として、試験時間に対する分量は調整されている。また、前回と同様、表現力を問う問題は含まれていない。第1回試行調査の物理・化学・生物で出題された「縦軸と横軸を指定せずにグラフを描かせ、そこから読み取った数値を用いて計算させる問題」は、化学の第1問 問4(正答率64.9%)のみとなり、他の科目では図やグラフを選択させる問題に置き換わっている。この形式の出題は、前回の報告で指摘したとおり、どのように利用したかがわからないため、思考過程をきちんと評価できない。
今回は、問題で与えられる情報の量や難度が調整されているものの、従来のセンター試験で出題されたような従来型の問題が増加している。せっかくの大きな変革の時期であるから、前回の報告でも指摘したように、引き続き、思考過程をきちんと評価できるような新しい出題形式を研究していく必要がある。

【教科書で扱われていない内容】
平成30年6月18日付の文書『「大学入学共通テスト」における問題作成の方向性等と本年11月に実施する試行調査(プレテスト)の趣旨について』において、理科の項目で「教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないものも含め」という記載がある。今回の試行調査では、化学の第2問Bの溶解性とイオンにおける電荷の偏りとの関係に関する問題、第3問B 問5の収率に関する問題、生物の第4問 問5の世代経過によるヘテロ接合体の減少に関する問題などは、教科書には明確な記載がなく思考力を要する問題といえるだろう。リード文などの問題設定で十分な説明があれば、こうした教科書で扱われていない内容を出題することは可能であるが、設問を解答する際、問題設定にも教科書にも記載のない知識を必要とすることは大学入学共通テストの趣旨に反するのではないかという懸念がある。

【連動問題に対する誤答の許容】
第1回試行調査でもみられたが、今回の物理と化学の一部の問題の採点基準において、問1を間違えても問2の解き方が合っていれば部分点を与えるという基準が示されている。後者の設問の解き方が理解できていたとしても、誤答にもとづく解答に点を与えるのはおかしいのではないか。このような場合は、後者の問題を前者と連動させるのではなく独立した設問にするべきである。

【対話型の出題形式】
今回も、各科目とも対話型の出題形式を多用して、日常生活とのつながりを意識した問題が出題されている。第1回試行調査で出題されていた、付け焼刃で対応したと思われるような出題はみられず、この点は大きく改善されたようである。

【曖昧な問い方】
第1回試行調査では、「物理法則に反するもの」、「合理的な推論として適当なもの」、「合理的でない推論を過不足なく含むもの」などの曖昧な問い方の問題が出題されていたが、今回の問題では出題されていなかった。恐らく、外部からの批判があったのではないかと推察するが、この点は大きく改善された。

【複数正解のある選択形式】
第1回試行調査の物理・化学・地学で出題されていた「すべて選べ」「二つ選べ」といった複数正解のある問題は、今回も物理の第1問 問4、化学の第5問 問2などでみられたが、第1回試行調査のような違和感はなく、従来も出題されていた程度に留まっていた。ただし、前回指摘したとおり、こうした出題形式に変更したからといって、思考力や判断力が問えるようになるとは考えにくい。また、第1回試行調査と同様、物理の第1問 問5や化学の第1問 問2、第4問 問2b、などの計算問題で、数学と同様の数値代入形式の出題がみられた。計算問題はすべてこの解答形式でよいのではないだろうか。

【過去問の流用】
第1回試行調査と同様、今回も、化学の第1問 問5~問7、地学の第1問 問2、問6など、大学入試センター試験の過去問を流用している問題がみられた。また、リード文などの導入部分に工夫があるものの、それぞれの設問を単独でみると、従来型の設問となっているケースが多い。2020年の共通テストでも、過去問の流用や従来型の問題が出題されるのではないかと思われるが、今回の改訂がどのような趣旨で行われ、思考力をどのように定義するのか、新しいテストで何を問いたいのかということを改めて明確にすべきではないだろうか。