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俳句に学ぶ【2024年7月「みんなのお話」最優秀賞】

 私が好きなテレビ番組の一つは「プレバト!」である。毎回5人前後の芸能人がゲストで呼ばれ、この人たちに「水彩画を描く」「色鉛筆アートを描く」などの課題にチャレンジしてもらう。そして、その分野の先生が作品を査定し、作品に順位が付けられ、「才能あり」「凡人」「才能無し」に分類される、という内容の番組である。

 

 特に人気なのは「俳句の才能査定ランキング」のコーナーだ。毎回、「公園」とか「洗濯」といったお題が与えられ、芸能人たちがお題に沿った自作の俳句を発表し、辛口俳句指導者の夏井いつき先生がそれらに厳しいダメ出しをするのが、見ていて痛快である(もちろん、優れた作品は手放しで褒めちぎる)。

 

 ところで、俳句の良し悪しはどうやって判定するのだろうか。水彩画の場合、上手いか下手かは、別にプロでなくても、素人でも見ればすぐにわかる。対して、2つの俳句を示されて、どちらが「才能あり」で、どちらが「才能無し」かを判断しろと言われても、素人には難しい。そもそも、俳句の良しあしなんて、単なる主観の問題ではないかと言う人もいるかもしれない。

 

 ところが、夏井先生の解説は非常に理路整然としており、俳句の素人が聞いても腑に落ちるものである。「俳句はこういう観点から見るのか」ということがわかるので、芸能人が作った俳句を見て「ここがダメだ」「ここが良い」と判断できるようになり、自分も一端の俳句評論家になった気分に浸れる。

 

 そこで、私が長年「プレバト!」を見て、夏井先生から学んだ「俳句の良し悪しを見るコツ」を紹介しよう。これをマスターすれば、万が一、社長や上司、あるいは自分の親や親戚などが「実は、私は俳句が趣味で……」と打ち明け、自作の俳句を見せてきた場合でも、「この俳句はここが素晴らしいですね」「ここをこう変えると、もっと良くなるかもしれませんね」などと上手に受け答えが出来、あなたの評価も爆上がりする(かもしれない)。

 

 コツのその1は「無駄を省く」である。俳句は「五七五」の17音(文字)の中に、言いたいことを全て納めないといけない。そのため、少しでも無駄な言葉・語は省略するのが鉄則である。

 

 では、どういう表現が無駄なのか。一言で言えば「言わなくても(読み手に)通じるもの」である。

 

 抽象的でピンとこないかもしれないので、例を使って説明しよう(なお、以下で取り上げるものは全て私のオリジナルの例である)。

 

 中の句と下の句が「見上げた夜空 星光る」という俳句があるとしよう。これのどこが無駄か、わかるだろうか。答えは「見上げた」である。なぜなら、夜空は私たちの頭上にあり見上げるものであり、「見上げた」とわざわざ言わなくても通じるからである。同様に、「光る」も無駄である。「星」は光るから見えるのであり、光っていない星は見ることができない。もっと言えば、「星」と言えば、「夜空」に光るものだから、「夜空」も要らない。このように、言わなくても通じることは、俳句では無駄として省略する。

 

 コツのその2は「言わないと通じないことは書く」である。これも具体例で説明しよう。中の句と下の句が「君の笑顔に 癒される」という句を見て、普通、どのような状況を思い描くだろうか。「君」とは密かに憧れている人かもしれない。あるいは、付き合っている異性のことかもしれない。そういう「君」の笑顔を見て、私は日々の疲れや悩みが癒される、という内容だと普通は解釈するだろう。しかし、この句を作ったのは、売れない若手漫才師で、「君」とは舞台を見に来てくれた観客の人であり、自分が漫才を披露している時にその観客が笑ってくれているのを見て癒されるという句を詠んだのだとしたら、どうであろう。ほとんどの人は、そんな内容だとは全くわからなかったと答えるだろう。「君」から、それが「漫才の舞台を見ている観客」だと理解できる人はいない。このような場合は、「君」ではなく「観客」と書き、自分が「漫才師」であり、「漫才を披露している劇場」での出来事であることがわかる言葉を加えないと、言いたいとは読み手に決して伝わらない。

 

 コツのその3は「感情ではなく映像を伝える」である。夏井先生によると、俳句は「嬉しい」とか「悲しい」という作者の感情を生のまま書くのではなく、そのように感じた情景=映像を描くものである。作者は頭の中に浮かんでいる映像を17音の句に凝縮する。そして、その句を通して、それを読んだ読み手の頭に映像が再生される。その映像から、読み手は作者の悲しい思いや、自然の神秘に対する感動を読み取る。したがって、「癒される」などという感情をストレートに述べるのではなく、その時の状況――目に見えていた光景、音、匂い、皮膚感覚などを書くことが大事なのだ。それによって、読み手の頭に具体的な映像が浮かび、その映像が小さな感動を呼び起こすものが、優れた俳句なのである。

 

 こうしたコツを知れば、自分で優れた俳句を作るのは無理でも、他人が作った俳句が「才能あり」か「才能無し」かを、ある程度的確に判断できるようになる。

 

 それだけではない。上で挙げた3つのコツは、俳句という芸術的な文章のみならず、文章一般を書く際にとても有効であると私は思う。

 

 私たちの仕事はテストの問題を作成することであり、その際には、設問文や選択肢など、様々な文章を作成する機会が多い。あるいは、外部スタッフやクライアントとメールでやりとりをすることも少なくない。いずれにせよ、私たちは常に何らかの文章を書いている。文章を書くことに苦労しないという人はそれでもいいが、そうでない人は、ここで紹介した3つのコツを意識しながら文章を書くと、どこをどう改善すればよくなるのか、自分の文章の問題点が見えてくるはずだ。

 

 特に、「無駄な表現はないか」「この説明で、言いたいことが読み手にきちんと伝わるか」「自分の思いばかりを前面に出すのではなく、相手を説得するための具体的な事実を提示しているか」という3つの観点から自分が書いた文章を見直す癖をつけることは、文章上達への第一歩になると思う。

 

(KK)