HOME  >  日々雑感一覧  >  社員の日常  >  不測の事態への対応

不測の事態への対応

 先週末、都内の音楽大学主宰のクラシックのコンサートを聴きに行きました。私の妹がオーケストラの一員として出演するからです。全部通しても1時間ほどのそこまで長いコンサートではありませんでしたが、演奏が始まって中盤を少し過ぎたくらいで、今まであまり見たことのない光景を目にしました。

 演奏中に突然、コンサートミストレスが隣のヴァイオリン奏者とヴァイオリンを交換したのです。コンサートミストレスとは、オーケストラの中で楽器を演奏している人のまとめ役を担っている女性(男性の場合はコンサートマスター)で、基本的にそれを担っているのはヴァイオリンを演奏している人の中の一人です。指揮者は「振り」で全員に指示をしますが、コンサートミストレスは「音」で全員を統率します。どうやら、そのコンサートミストレスのヴァイオリンの弦が演奏中に切れてしまったようでした。そこで彼女はどうしたかというと、隣のヴァイオリン奏者にそのヴァイオリンを渡し、その人のヴァイオリンを借りたのです。そしてその弦の切れたヴァイオリンを受け取った人は、真後ろの人にそれを渡してその人のヴァイオリンを借り、そのまた後ろの人は………と、リレー形式で楽器を借りて交換をしていました。最終的に一番後ろのヴァイオリン奏者のもとに弦の切れたヴァイオリンが到着したため、演奏が行われている中、その人はそれを静かに舞台袖に持っていき、弦を張り替え、また戻ってきていました。

 その一連の動きがあまりにもスムーズだったため、なにが起きているのかすぐには分かりませんでしたが、改めて考えると、とても珍しい出来事を目にする機会を得たと思います。実際、右手に持っている弓の糸が切れるということはよくあるものの、弦の糸が切れるということは珍しいようです。かつて、ヴァイオリニストの五島みどりが指揮者のレナード・バーンスタインと共演した際、演奏中にヴァイオリンの弦が2度も切れるというハプニングに見舞われながらも、コンサートマスターと副コンサートマスターから楽器を借りて最後まで演奏した、という有名な話があります(「タングルウッドの奇跡」)。全く同じ状況ではないものの、似たような光景を自分が実際に見ることになるとは思いませんでした。

 私にとって印象深かったのはその出来事だけではありません。演奏が終わった後に指揮者の人が「驚いたけれども、演奏者が冷静な判断をしていてとてもよかった」という話をされており、この言葉が私の心に残りました。妹も前述のリレーに参加した中の一人だったため、後から話を聞くと「今回のようなことが起きたらこのようにするという手順はもちろん決められているものの、よくあることではないので内心驚いた」とのことでした。

 弦が切れてしまった本人はもちろん、関わった周りの人は思わぬことで動揺していたかもしれません。しかし、客席からみると全くそんな素振りは感じられず落ち着いた雰囲気で、演奏に支障がでないよう淡々とこなしているように見えました。このオーケストラの一連の動きから、事前準備の必要性や、不測の事態が起きた際どう対応するかを考えておくことの大切さを実感しました。

 それと同時に、もし自分だったら、普段起こらないようなことが実際に起きてしまったときに(しかも今回は起こってほしくない本番中に起きたわけですが)、即座にすべきことを考え、行動に移すのは容易にできないのではないかと思います。我々の仕事であれば、例えばお客様からのすぐに返答が必要な問い合わせに対し、迅速に適切な回答文書を作成する必要が生じるかもしれません。このような、普段とは異なる業務が発生したり、不測の事態が起きたりすると焦ってしまいがちですが、もし焦ったとしても、混乱のあまり間違った選択をしないよう、想定できる範囲である程度の事前準備をしておくことが大事になってくると思います。そうすることで、たとえ想定外の事態が起きたとしても落ち着いて対応し、そのときの最善の対応ができるようになるのではないか……そんなことを今回改めて考えました。

 そして、私たちの仕事は一人だけで完結するものではありません。何か問題が生じたり困ったことがあったりしてもひとりで抱え込まず、その問題を最小限にできるよう、このオーケストラのようにお互いがフォローしあえるような環境をつくるよう取り組むことも同時に大事であると感じた出来事でした。

 

(MS)