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折れた山桜

 我が家は,池袋から電車で2時間,田園地帯に接する自然に囲まれた立地にあります。敷地の片側は雑木の茂る5m程度の斜面になっており,斜面直下の道路は休日には田舎道の散策コースにでもなっているようです。また,もとが雑木林ですので,土地柄か敷地内には屋根より高いミズナラの大木などがあったりします。
 そんな状況で平日は通勤時間の長さに嘆きながら,休日は庭の手入れで一日が終わることもしばしばです。「自然に囲まれた」と書くと字面は良いですが,ヘルメットを被ってまるで長槍のような6mの柄のある大型ののこぎりで枝を落としていると「これはガーデニングの範疇なのだろうか……」と自問してしまいます。
 台風など強風の吹いた後は高所の枝が落下しそうにないかが心配になりますが,あるとき台風の翌朝,窓から見える庭の景色が変わっていました。なんだか空が広いような……。どうやら斜面側にあった山桜の木が強風で倒れてしまったようでした。派手さはないものの,春には花が咲くので大切にしていた木だったのですが。
 折れたところが地上1mの高さで,倒れた方向も斜面上側に向かっており,加えて枝ぶりもよかったので,周りの木に引っかかって支えられていたことは幸いでした。上空の手の届かない高さで折れていたり,道路側へ倒れていたりしたら被害も大きく大変ですから。そうは言っても,このまま放っておくわけにはいきません。太いところで直径20cm程度の細い木だったとはいえ,高さは5~6mはあったので,重さはかなりのもの。立地上,業者に頼んで移動や支えのために重機を入れるのは大事になり面倒,斜面で足場も悪く他の木もあって狭いためチェーンソーを振り回すのも危険,結局小型ののこぎりでちまちま分解しながら処理することにしました。
 のこぎりで木を切った経験のある人ならご存じのことですが,生の木というものは日常の感覚で感じる以上にとても重く,落としどころを間違えると大けがにつながります。力のかかり具合,支えになっている他の木の強度などを考慮し,切り落とす箇所,その順番,最後までの工程のイメージをつかんだところで作業に取り掛かります。とはいえ,この手の作業は想定外のことは常におきるので,気を抜くことなく,その都度考えながら物理的に身に危険がある作業をやりきりました。
 学生時分は物理学の実験をよくやっていたこともあり,危険の伴う作業を順序だてて行うことには慣れていたのですが,この時は久々に安全に気を配りつつ木を切り分けながらも日々の業務のことを考えていました。今の私の業務では身の危険を感じることはないため,流れのままにこなして行くことも可能ですし,危険がない分意識することも薄くなります。ですが,それぞれの作業,その順番には意味があり,想定外のことも起こりえます。「なぜそう判断したのか,それで正しいのか」を自分で考えながら業務を進めることの大切さを思い出し,気を引き締めた次第です。
 さて,山桜は折れた本体からの枝も枯れずに生き残り,根本からも若木が生えてきています。野生の生命力の強さに感心しつつ,またひっそりと我が家に春の訪れを告げてくれる日を楽しみにしています。

(MM)