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健康診断

 毎年2月、3月は、健康診断の季節だ。もちろん、受診しようと思えば、健康診断は1年中受診可能である。しかし、私は例年、健康診断を受けるのを先延ばしにして、新年度が迫ってきた2月、3月に慌てて予約を入れて受診するというのを繰り返している。

 なぜ、先延ばしにするのかというと、私は健康診断が大嫌いだからである。健康診断のことを考えると憂鬱になる。そのため、毎年、年度末のギリギリになって、やっと受診するというパターンを繰り返している。

 健康診断の何が嫌なのか。「いい大人のくせに注射が怖いのだろう」と思われるかもしれないが、それは違う。私は、注射は全然平気だ。せっかくなので、注射が苦手な人のために克服法をお教えしよう。注射針を受ける腕を差し出す時、空いているもう片方の手で自分の太ももを思いっきりつねるのである。出来れば、青アザが数日残るくらい強くつねるのが望ましい。その痛みに自分の意識が向いている間に注射をされれば、注射の痛みはほとんど感じない。「毒をもって毒を制す」という方法だ。

 注射でなければ、何が嫌なのかというと、胃部レントゲン、俗に言うバリウム検査である。あれが死ぬほど苦手なのだ。バリウム検査を受けると、その日一日中吐き気が続くくらい気分が悪くなるからだ。

 この検査を受けたことのない若い人のために、どういうことをするのか、説明しよう。

 まず、胃を膨らませるために炭酸の粉を口に含む。といっても、全く味がついていないので、ただ酸っぱいだけだ。続いて、コップ1杯分のバリウムをゆっくりと飲む。見た目は牛乳そっくりだが、味はほとんどない。飲み終わると、口の中にバリウムの粉がべったりくっついた感じがして気持ち悪い。これで準備完了。

 次に、ベッドのような大きな板に背中をつけ、左右の腰の辺りにあるバーをしっかりと握る。すると、板はゆっくりと水平になったり、垂直になったりする。そして、医師の指示に従い、バーを握ったまま、体勢を左向きにしたり、板の上で一回転したりする。これを10分近くにわたって何度も繰り返す。

 なぜこんなことをするのかというと、胃の中でバリウムを動かし、様々な体勢でそれを撮影するためだ。こうすることで胃の状態をチェックするのだが、ただでさえ不味いバリウムと炭酸でお腹がふくれた状態で体を何回も回転させるので、吐きそうになる。実際、以前、その場で吐く寸前になったことがある。

 最後に、バリウムを体外に排出するため、検査の後、下剤を飲まされる。そのため、検査が終わってやっと体調が元に戻った頃に、今度は下剤の効果でお腹がキュルキュルと痛み、苦しむことになる。

 ご存知の方もいるだろうが、胃の検査にはバリウムか胃カメラのどちらかを選択できる。胃カメラのほうが苦しくないという話も聞くが、あんなものを口から入れて何かあったらと考えると、怖くて眠れなくなる。

 数年前、カプセル型の胃カメラが開発されたという話を聞いた。小指の先程度の小さなカプセルを飲み込んだら、後はそれが勝手に胃の内部を撮影し、終わったら便と一緒に排出される。これなら苦痛は全然ない。調べたところ、既に実用化されているらしい。残念ながらハピラルが健康診断に指定している病院では導入されていないが、他の病院では、希望すればカプセル型の胃カメラを使えるという。ただし、保険が適用されないと1回で約10万円!医師の判断で保険適用になっても3万円の自己負担だ。いくらバリウムや胃カメラが嫌な私でも、自腹で3万円払うのは無理だ。

 私が納得のいかないのは、健康診断を受けるたびになぜこんな苦しい目にあわなければならないのかということだ。最初に飲む炭酸をなぜコーラ味やファンタ味にしないのか。それなら私も喜んで飲むのに。バリウムだって、もう少し飲みやすく味をつけられるはずだ。さらに、カプセル型のカメラだって、いくら使い切りだから費用がかかるといっても、技術の改良によってもっと安くできるのではないか。

 なぜこうした改良・改善がなされないのか。あくまでも私の推測だが、理由が2つ考えられる。

 1つは、競争がないことだ。現状の健康診断は、希望者が受けるものではなく、法律で受診が義務づけられている(労働安全衛生法により労働者は健康診断の受診が義務付けられている)。そのため、病院側としては、特に努力しなくても一定数の患者の受診が保証されている。つまり、健康診断という市場では競争がないので、患者(顧客)獲得のための努力をするインセンティブが病院に働かないのだ。

 もう1つは、医療者側の意識の問題だ。おそらく、医療者は、健康診断で大切なことは「正確な診断」をすることだと思っているのだろう。たしかに、不正確な診断によって病気の予兆を見逃すことは許されない。正確な診断は患者の利益にもつながる。それゆえ、正確な診断を行うという点ばかりに意識が向きがちになり、診断に伴う患者の苦痛や不快感にそれほど関心がなくなるのではないか。しかし、健康診断を受ける側としては、正確さだけでなく、苦痛や不快を伴わないことが重要である。正確な診断ができるからといって、苦痛や不快に耐えようという人はいないだろう。

 ここが通常の医療行為と健康診断の違いである。病気や怪我で苦しんでいる時であれば、診断や治療に苦痛や不快が伴っても耐えることができる。虫歯の痛みが耐えられない時、歯を削る治療の痛みは我慢できる。だが、健康診断を受けるとき、普通はこうした病気や怪我の苦しみは伴っていない。それゆえ、苦痛や不快に耐える動機がない。実際、法律の義務づけがなければ、現状のような健康診断を受けようという人は少ないはずだ。医療者側は、健康診断をもっと快適なものになるように工夫・努力すべきではないか。

 このことは健康診断だけの問題ではない。顧客に商品やサービスを提供する側の者が常に忘れてはならないことではないかと思う。ハピラルでも「IRT」の普及を目指しているが、「IRT」を説明するときに、いくら正確に伝えることが大事だからといって、難しい専門用語や複雑な数式を出して説明しては、相手の拒絶反応を呼び起こしてしまうおそれがある。バリウムに美味しい味をつけて飲みやすくするように、IRTを親しみやすく、わかりやすく感じてもらうような説明の仕方をもっと工夫していかなければならない。

 

(KM)