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45.変化に気づかない

 若いときは、温泉なんて、と思っていましたが、60歳を過ぎたころから、ゆったりと時が流れる空間がすっかり好きになってしまいました。昨年の暮れ、急に思い立ってあれこれ問い合わせてみると、伊豆の温泉宿の一部屋が空いていました。少しぬるめの露天風呂につかっていると、ふわーっ、と眠気に誘われます。全身脱力状態です。「ぬるま湯につかる」というと、通常は悪い意味に使いますが、時には良いものです。
 翌日、海岸に沿ってつくられた遊歩道を歩くことにしました。海に通じる細い道の傍らに咲く黄色の花に、目がとまります。光沢のある肉厚の葉からスルスルと茎をのばし、その先に大きな花をつけています。たぶん「ツワブキ」だと思います。冬になると多くの草花は枯れてしまうので、よく目立ちます。

ツワブキ

 

 岩だらけの岬に着きました。海から冷たい風が吹きつけています。視線を落とすと、わずかな岩のくぼみに、小さくて黄色い花が身を寄せ合って咲いています。おそらく「イソギク」でしょう。強い風から身を隠すように岩陰に咲く様は、小さな高山植物を想起させてくれます。海岸沿いの車道に出ました。強い風にあおられて激しく波が打ち寄せています。雲の隙間から一条の光がさし、その真下の船にスポットライトが当たっています。

スポットライト

 

 泡立つ海を背景に、オレンジ色の大きな花が激しく揺れています。「アロエ」に違いありません。私は、アロエはサボテンの一種だと思っていたのですが、違う仲間です。アロエは葉のふちに棘がありますが、サボテンは葉が退化して棘になったそうです。勝手な思い込みは慎まないといけませんね。

アロエ

 

 道標に従い細い道に入り、磯に下ります。シーズンオフのせいか、誰もいません。手ごろな岩に腰を下ろし、絶え間なく押し寄せる波を眺めます。そういえば…、伊豆半島は、大昔、日本のはるか南に浮かぶ島だった。その島が、地球内部の対流によって北へ移動し、およそ100万年前に日本にぶつかり、その後もグイグイと押しつづけ、南アルプスを3,000mの高さまで押し上げた。南アルプスは、現在でも年間に3㎜から4㎜、上昇を続けている…。こんな話を思い出し、変なことをやってみたくなりました。
 その場で立ち上がり、目を閉じ、波の音や風の音をできるだけ聞かないように努めます。そして、全身の感覚を集中して、伊豆半島が動いていることを感じ取ろうとしました。もちろん、感じ取れるわけありません。一瞬たりとも止まることなく動き続けているとはいえ、その動きは人間の感覚を超えています。おそらく、感知できる人はいないでしょう。
 仕事を取り巻く環境も、日々、刻々と変化しています。多くの場合、変化に早く気づくほうが、仕事を進める上で有利だとはいえ、日々の変化は微々たるものなので、「変化していること」を感じ取ることは不可能です。しかし、小さな変化が少しずつ蓄積されていくと、「変化したこと」に気づき始める人が現れます。
 他より、ほんの少し早く変化に気づき、しかるべき対応をとることができるかどうか。始まりはわずかな違いですが、これが積み重なると、大きな違いになってしまいます。あなどれませんね。

(社長)