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40.今日は登らない

 まぶしい空にムクムクと立ち上る入道雲は、夏空に聳える3000mの山を連想させます。私にとって「夏が来れば思い出す」のは尾瀬ではなく、アルプスや八ヶ岳などの高峰です。仮に、高い山に上ることなく夏が終ってしまったら、それは、とても寂しく悲しいことでしょう。
 今年の梅雨明けは遅く、東京は7月29日でした。8月に入った最初の日曜日、南アルプスの北岳に出かけました。ただし、今回は山頂を目指しません。あれほど「山恋し」といっておきながら、何をしに行ったかというと、山の中腹の花を楽しむために、です。
 この十年来、毎年、少なくとも一回は北岳に登っています。そのたびに山の中腹に咲く花を目にするのですが、テントや食料のつまった重いザックを背負っているので、花を楽しむ余裕はありません。加えて、できるだけ早く林を抜け出して、3000mの空気を吸いたいと気がせきますから、花に目が留まっても、なかなか足は止まりません。一度、キチンと中腹の花を見てみたい、と思い続けても、これまで実現できませんでした。そこで、意を決して、わずかな荷物を小さいザックに入れて、北岳の中腹を歩くことにしたのです。
 休日ですから多くの登山者が上り下りしています。皆さん、わき目も振らず一所懸命、急な山道を歩いておられます。そんな中、私はといえば、あちら、こちらで立ちどまり、花を覗き込んだり、写真を撮ったり、のんきなものですから、少々、気が引けないでもありません。しかし、私の休日を、私がどう使おうと、私の勝手。先を急ぐ登山者の邪魔にならないように注意して、私は先を急ぎません。アルプスの山道を、こんなにお気楽に歩くのは初めてです。そのせいか、とても新鮮な気がします。アルプスといっても、ここは標高2000m程度。他の山でも体験できる高さですから、すでに名前のわかる花も少なくありません。アルプス以外の山で学んだ花の知識をアルプスで活用しているわけですが、これは、結構、うれしいものです。
 こんな具合に、心地よく歩いていると、小さな赤い粒粒のついた背の低い植物が目に留まりました。気の早い植物が、もう実をつけたのか、と思い、かがんで目をやると、どうやら花のようです。オヤッ、と思い、ルーペでのぞくと…、

 クロクモソウ

 

 帰宅して少し詳しい図鑑で調べ、おそらく「クロクモソウ」だろうと、結論づけました。今回は、山頂を目指して山腹を通過するのではなく、花を愛でることを目的に時間をかけて山腹だけを歩きました。その成果として、クロクモソウを見つけることができました。仕事でも、時間をかけてじっくりと取組まなくてはならない「事」があるとわかっていても、常に締切りに追われているせいで、つい、先延ばしにしてしまう「事」があります。でも、時には、目先の仕事をいったん脇において、じっくりとその「事」に時間を費やすのもいいかもしれません。そうすると、それまで気づかなかった思いがけない発見という成果が手にはいることがあります。どこに、何が、転がっているか、分かりませんね。

 

 以下、おまけの写真を2枚。最初は、レイジンソウです。レイジンは「伶人」と書き、雅楽の演奏者のことだそうです。伶人がかぶる冠に似ているので、レイジンソウだとか。面白い名づけ方だと思います。

 レイジンソウ

 

 もう一枚はトリカブトです。この花は種類が多く、この写真も、正式には〇〇トリカブトというべきですが、ここでは、トリカブトとさせてください。トリカブトは「鳥兜」と書き、伶人が身につける冠が由来との事です。見方によっては、レイジンソウと似てますね。

 トリカブト

 (社長)