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32.名前

 先日、近くの山を歩いていたときのことです。たどり着いた山頂に、小さな黄色い花をたくさんつけた木が一本。近寄ってみると、花や木の幹の様子から、サンシュユだとわかります。明るい日差しに金色に輝くようで、さっそくカメラを花に向けました。すると、この木の近くで車座になって食事をしている女性グループの一人が、私が写真を撮っている花に気づいたらしく、「あの黄色い花は何だっけ?」、とメンバに話しかけました。
 グループの誰かが、「あれは、サンシュ●でしょ!」、と答えましたが、語尾がはっきりしないので、サンシュか、サンシュウか、それとも、サンシュユか良く聞き取れないなあ、と思った矢先、間髪をおかず、
「エーッ、サンシュウは庭木よ。だって、『庭のサンシュウの木…』って歌があるでしょ。」
「何よ、その歌。全く、歳がばれるんだから。それに、サンシュウじゃなくて、サンショウでしょ。庭のサンショウが良い香り、って歌よね。」
「違う、違う、あの花はダンコウバイでしょ。先週も見たじゃない。」
「違うんじゃない。ダンコウバイと似てるけど、あれはアブラチャンね。」
「エーッ、そうかしら。ポンポンみたいに丸くって真黄色よ。だから、ダンコウバイよ。」
「色は黄色だけど、形はポンポンみたいじゃないよ。」
「そう、そう。ダンコウバイじゃないわね。それに、アブラチャン? そんな変な名前の花、あるの? 」
「あなた、なに言ってるの。アブラチャンよ。先週見たでしょ。教えてあげたじゃないの。もぅ忘れてるんだから。」
「知らないわよ、そんなの!聞いてないし…」
 すると、「あの写真撮ってるオニイサンに聞いてみようか。」「そうね、あなた、聞いてよ。」
 これはまずいことになってきました。矛先が私に向いてきました。これはサンシュユですね、などと言おうものなら、ダンコウバイ派からも、アブラチャン派からも、サンシュウ派からも、「違うでしょ!」、と集中攻撃を受けそうです。60歳を過ぎた頃から、山では、私もオトウサンと呼ばれることが多くなりました。私をオニイサンと呼ぶということは、この女性たちは私よりも先輩なのでしょう。先輩にはかないません。ここは聞こえない振りをして立ち去るに限ります。
 声がかかる前に、「これで良し!」、などと、わざとらしく大きな声で独り言を言って、カメラを片付けその場を退散しかかると、「もう、なんだっていいわよ。小さくて黄色い花がきれいだった。それで良いでしょ。」の一声。
 やや間があって、「でも、戻ってから、花の名前は、って聞かれたら困るけどな…」
「いいじゃない、そんなこと。ダンコウバイか、アブラチャンか、サンシュウか、どれかだと思うけど、良くわからなかった、って答えればいいのよ。」
「そう、そう。花の名前で喧嘩しても仕方ないもんね。」
「そーねー。名前なんか、何でもいいもんねー。」
「そーよ。」
「ねーっ。」
 と全会一致で合意形成となりました。
 確かに、花の名前でもめるよりも、仲良く、きれいねー、と皆で感動を共有したほうが良いですもんね。名前は何かと便利なものですが、名前が分からなくても、花を愛でることはできますしね。今回のお話は、これでオシマイです。


サンシュユの花

 


ダンコウバイの花

 

 

アブラチャンの花

 

(社長)