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27.戻せない

 夜が昼に変わるさかい目は、「日の出」。その逆は、「日の入り」です。「日の出」のときに東の空が赤く染まることは「朝焼け」、「日の入り」のときに西の空が染まることは「夕焼け」です。皆さんは、「朝焼け」と「夕焼け」と、あえてどちらかと言えば、どっちが好きですか。山に泊まると、「日の入り」よりも「日の出」の方が好きな人が多いような気がしますが(特に、1月1日の日の出は、山でも街でも大人気です)、私はというと、「日の入り」の方が好きです。
 ほぼ毎年のように、年末・年始は、山中で一泊して、東京の最高峰の雲取山(2017m)に上ります。今季は、12月29日(土)に奥多摩小屋の近くにテントを張り、翌30日に山頂に上りました。山頂からの眺めは素晴らしいもので、何かに感謝しないではいられない、そんな気になります(街にいるときも、そういう気持ちで過ごせると良いのですが…)。
 29日(土)は午後から雲が広がりましたが、空気はカラカラ、山もカラカラ。風はないのですが、渇いた冷たい空気にはトゲがあるようで、頬に痛みを感じさせます。次の写真を撮影した時刻は、16時28分。どうやら、太陽は南アルプスの悪沢岳あたりに沈むつもりのようで、残された力を全部使い切るかのように、「最後の輝き」を見せています。雲が多いせいでしょうか、きれいに赤く染まるというわけではありませんが、こんな「夕焼け」も悪くない。でも、他のテント泊の人たちは夕食の準備中らしく、誰も外には出てきません(とても寒いので仕方ないですけどね)。


16時28分

 

 そして、16時37分、私が見ている空から、太陽が姿を消す時を迎えたようです(雲の中に姿を隠してしまったので、はっきりとしたことは言えませんが…)。まばゆい輝きを見せていた空は、厳かな朱色にかわりました。そして、一瞬ではありますが、この世の全てのものが動きを止めて、この「日の入り」に目を留めた、そんな気がしました(もちろん、そんなことはありえませんが…)。


16時37分

 

 日が沈んでしまいました。時刻は16時48分。私が見ている空のどこを探しても、もう、太陽の姿はありません。もちろん、いくら呼んでも、絶対に戻ってくることはありません。あたりの静けさが、急に増してきたような気がしました。空は落ち着いた赤にかわり、雲も動きを止めているようです。これで、新しい太陽が東の空に姿を現すまで、長く寒い夜の始まりです。さあ、急いでテントに戻り、シュラフにもぐったほうが賢明です。


16時48分

 

 冒頭、私は「日の入り」の方が好きだ、と書きました。理由はいくつかありますが、その一つは、物事の「始まり」よりも「終わり」に心惹かれるからです。仕事の場面でも、「さあ、今から始めるぞ」という意気込みよりも、「色々あったけど、無事に仕事を終えることができた」という安堵感の方が心情的にしっくりきます(社員は意外に思うかもしれません)。私どものテスト作成業務は、年度初めに気合を入れることなく静かに始まります。そして、与えられた時間を使って、やるべきことを日々淡々とこなし、決められた期日に「お約束の品」を静かにお納めします。そう、静かに夕日が沈むように、です。でも、そのときに、空が赤く染まるのが、一番の「ご褒美」かもしれません。
 
(社長)