HOME  >  日々雑感一覧  >  社長の日々雑感  >  14. 勝手に命名

14. 勝手に命名

山を歩くと、個性的な形の木や岩、古い祠や苔むした石碑、そして、地図にはない思いがけないビューポイントなどに出くわすことがあります。
しばらくその場に立ちどまっていると、自然と心にあれこれとうかんできます。その中から気に入ったものを選んで勝手に名前をつけ、一人でニヤニヤしながら面白がっています。「勝手に命名」した木や岩などの対象物は、私だけの道標(みちしるべ)になります。
不思議なことに、名前のついた対象物が増えると、山歩きがさらに楽しくなります。今回は、勝手に名前をつけた3つの木をご紹介しましょう。

その1 ~ S字カラマツ

ゆるいS字カーブを見ると、項目特性曲線を連想し、つい足がとまります(項目特性曲線は以前の記事(「共通尺度」とは何だ?!~その3)をご参照ください)。
名前の由来は、写真をご覧いただければお分かりのことと思います。周囲はカラマツ林ですが、この木は一本だけポツンと立っていますので、尾根続きのピークから見分けることができます。ここを過ぎると、程なく、水場、テント場、そして、待望の頂上です。夏になると、S字カラマツのまわりは黄色のマルバダケブキの花で埋め尽くされ、それは見事なものです。
しかし、裏を返すと、マルバダケブキしか咲かないのです。その理由は、聞くところによると、シカはマルバダケブキが嫌いなので食べないから。つまり、マルバダケブキ以外は、シカが食べつくしてしまうのです。ここでもシカの食害は深刻です。そうなると、花の斜面を見て無邪気に喜んではいられませんね。

 

S字カラマツ

 

その2 ~ ズルズルの木

根がむき出しになった大木が、ズルズルと斜面を滑り落ちているようです。驚くことに、根は横に伸びており、地中深く根を張って大きな体を支えているわけではないようです。
こういう姿になった背景には、長年風雨にさらされて斜面が侵食されたこと、そして、崩れやすい斜面を多くの人が通ることがあると思います。木の左下に、頼りなげに並んだ丸太が登山道です。登山道が崩れれば、当然、斜面も崩れます。斜面が崩れれば、ズルズルの木はさらに斜面をずり落ちてしまうでしょう。そうならないように、ここを通るときはドカドカと地面を踏みつけたり、ストックなどで不必要に地面を突いたりせずに、そっと、そっと、やさしく歩く必要があります。
ズルズルの木を無事に通過すれば、ゴールは目の前。少し大げさな言い方ですが、天上の花の楽園が待っています。

 

ズルズルの木

 

その3 ~ 新大ブナ1号

尾根に沿ってブナやミズナラが生える登山道があります。その中でとりわけ大きなブナの木に、大ブナ1号、大ブナ2号と名前をつけました。
その後、この尾根道を再訪してみると、なんと、1号ブナが根元近くからポッキリ折れていました。これにはガッカリです。しかし、いくら悔やんでも折れたものは戻りません。気を取り直して歩き出すと、1号のそばにもう1本大きなブナが生えていることを思い出しました。
果たして、すぐに見つかりました。大ブナ1号より小ぶりですが、それでも立派な木です。この木を新大ブナ1号としました。
大きな木が倒れてしまったので、そのあとに若いブナが育つスペースができました。そのスペースに、新・新大ブナ1号が育つかもしれません。ただし、私がその姿を見ることは、おそらくかなわないでしょうね。

 

新大ブナ1号

 

初めての山は歩くことに精一杯。しかし、何度か訪れるうちに余裕ができ、周囲のものが見えるようになり、そのなかから「勝手に命名」がうまれます。

仕事にも同様なことがいえそうです。初めての仕事は、目の前の業務をこなすことに精一杯。二度目で少し余裕ができて、三度目になると、これまで見えなかったことに気づくようになります。
仕事での気づきにも、そのポイントを的確に表現する名前をつけると面白いかもしれませんね。

(社長)