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13. 君は、どこの誰?

梅雨が明ける前から、3,000メートル級の稜線では高山植物の花の季節が始まります。
数年前、雨を覚悟して八ヶ岳を目指したことがあります。

登山口でバスを降り、砂利の林道を歩き始めると、左手の藪に花を見つけました。足をとめ、ザックをおろし、ハンディタイプの植物図鑑を取出します。花のそばにしゃがみ、図鑑の写真と目の前の花を見比べ、図鑑の説明を読んで花を調べますが、どうにも合点がいきません。
すると、突然、「それ、ツリガネニンジンよ。」反射的に振り返ると、小太りの中年女性が立っていました。
目があうと、「その花、有名よ。ツリガネニンジンね。」勢いに押されるように、「ああ、有難うございます。」とお礼をいい、すぐに花のほうに向き直ると、「だから、ツリガネニンジン!」どうやら、私がこの女性の言うことを信用していない、と受取ったらしく、これには困ってしまいました。
立ち去る様子がないので、仕方なく、「実は、この花が野山に咲くツリガネニンジンなのか、それともツリガネニンジンの高山タイプのタカネツリガネニンジンなのか、確認していたんですが、なかなか分からなくて…」と言うと、「どっちにしたって、ツリガネニンジンでしょ!」と、プイッ。

これには小さなため息が漏れましたが、気を取り直して花の同定再開です。改めて、花を見たり、葉を見たり、ルーペで拡大してみたり、あれこれやってみましたが、結局のところ、よく分かりませんでした。君は、野山出身の花なのかい、それとも、高山出身なのかい。こんなふうに、花に語りかけて、その場を立ち去りました。

ここで、この手記をお読みの皆さんにお願いがあります。もしも花に詳しい方がいらしたとしても、どうぞ、ツリガネニンジンとタカネツリガネニンジンの見分け方を私に教えないでいただきたいのです。仕事においては、不明な点はそのままにせずに、即刻、解決しておかなくてはなりません。しかし、趣味となれば、「わからないこと」は、わからないままにしておき、いつかわかる時がくるだろうと宙ぶらりんの状態にしておくことも許されるのでは、と思います。

「わからないこと」について、機会があれば、本やネットで調べたり、知識をお持ちの方の話を聞かせてもらったりして、必要な知見を手に入れる。そして、その知見を現実の世界で使ってみる。今回の話でいうと、手に入れた見分け方の知見で、ツリガネニンジンとタカネツリガネニンジンを本当に区別できるのか試してみる。もしも、なるほどね、と合点がいき、実感を伴って、「わかった!」、と納得できれば、少し大げさですが、その瞬間は至福のひと時です。私は、こんな至福のひと時をできるだけたくさん体験したいと思っています。そのため、至福のひと時の種になる「わからないこと」は一つでも多く持っていたいと思うのです。

次は、最近上った山の写真です。
最初の写真は、「若葉の季節に雪が降る」です。木に咲く満開の花が、雪のように見えませんか。

花が満開のズミの木

 

木に近寄って、見上げると、若葉の緑と白い花に空が覆われてしまいます。見事ですね。

ズミの花

 

次は、「真昼の紅白戦」です。花の名前はニシキウツギです。ニシキは錦ではなく、二色。紅白の花は、争っているのでしょうか、それとも、戯れているのでしょうか。

ニシキウツギ
 
(社長)