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2021年「大学入学共通テスト」への当社コメント(生物基礎・生物)

令和3年度(2021年実施)試験(生物基礎・生物)について

 

【総論】

 生物基礎・生物ともに,昨年の大学入試センター試験(以下,センター試験)と比較して知識問題・計算問題の出題数が大きく減少し,思考力・判断力を問う問題の出題数が増加した。また,生物では昨年のセンター試験や大学入学共通テストの試行調査(以下,試行調査)でみられた会話文による問題も出題された。大問数はセンター試験と変わらず,文章量も同程度だが,解答数をみると生物基礎は16,生物は27となっており,それぞれ昨年のセンター試験より大きく減少した。思考力・判断力を問う問題の数が増えた分,解答数を調整することで試験時間に対する分量は調整されていた。生物基礎の平均点は29.17点,生物の平均点は72.64点であり,昨年のセンター試験と比較して生物基礎は難化,生物は大きく易化している。受験生の思考力・判断力を測るためには,与える資料の文章の量や設問数,出題形式などについて,どのように適切な量や内容とすべきか検討する必要がある。

 

【センター試験・試行試験との比較】

 問題形式については記述選択,空欄補充など従来のセンター試験と同様の形式がほとんどであり,昨年のセンター試験や試行試験で出題された順不同の問題やあてはまるものをすべて選べという形の問題は出題されなかった。一方,生物基礎・生物ともに過不足なく選ぶ形の問題や,部分点を与える問題が出題されている。生物基礎における光合成の反応を示した模式図の空欄に当てはまるイラストを選択肢から選んで完成させる問題(第1問 問3)はこれまでにない出題であり,生物における実験計画に関する問題(第5問 問6・問7)や合理的な推論を問う問題(第6問 問5)などは,試行調査ではみられたが従来のセンター試験ではみられない出題であった。

 生物において,昨年のセンター試験より考察問題の出題数が増加したにも関わらず平均点が増加した原因は,第2回試行試験と比較して設問数が減少し,考察に必要な情報をリード文等で与えていることや,実験について考察した文章の空欄を埋める問題や,明らかな誤りを誤答選択肢として設定するなど,誘導や難度調節がなされていたことにあると考えられる。一方,生物基礎については生物のような誘導がなかったことが,平均点の低下の原因の一つではないだろうか。

 生物で用いられた会話文(第3問)では,生産構造図について,図をどのように読むのか,そこから何がわかるのかを話し合う場面設定となっており,昨年のセンター試験・生物基礎やこれまでの試行試験でみられた疑問を投げかけ合う会話文よりも,図の解釈をしやすい構成となっていた。しかし,実質的な内容は図の読み取りと計算問題であり,会話文を誘導として考察を行う問題とはなっていないため,今後はより会話を活かした出題となることを期待する。

 

【学習の過程を意識した問題の場面設定】

 大学入試センターが令和元年6月7日に公表した文章「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」には『高等学校における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し,授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等を基に考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する』と記載されている。この方針に則り共通テストでは,生物基礎においてゾウリムシの体液と収縮胞のはたらきに関する考察問題(第2問)や,生物においてリード文に会話文を用いた問題(第3問)が出題された。また,センター試験では第1問「代謝」,第2問「遺伝情報の発現」などのように大問毎に出題分野が分かれていたが,共通テストの生物基礎では第3問「生物の多様性と生態系」で免疫に関する問題が,生物の第1問では輸送タンパク質・代謝に関する問題,一塩基多型(SNP)から進化について考察する問題,遺伝子発現に関する問題など,複数の分野から出題される大問があった。教科書では単元ごとに学習する内容が区切られているが,単元間の繋がりを意識させることで,より深い学びに繋げる意図があると思われる。

 しかし,生物基礎 第1問 問2で出題された「父親が高校生だった当時に提出し忘れた宿題のプリントをみて,誤った解答の数を答える」という問題は,宿題という身近な題材を扱ってはいるが会話による誘導のない単純な知識問題であり,題材と場面設定が「主体的・対話的で深い学び」や「学習の過程を意識した」問題としては付け焼刃という印象を受ける。また,リード文末尾の「父が不確かなことを言い出した。私は,一抹の不安を抱きながら何枚かのプリントを見たところ,そこには……。」という文章は父親を貶める印象を与えないだろうか。さまざまな家庭環境の受験生が受ける可能性があるため,試験問題としては適切な表現をするべきである。

 

以上