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2021年「大学入学共通テスト」への当社コメント(英語)

令和3年度(2021年実施)試験(英語)について

 

1.全体の概要

 今年度初めて実施された大学入学共通テストだが、センター試験とは異なる点が多くみられた。リスニングでは、音声を流す回数が大問によって1回と2回で分かれていた点に加え、会話の一部にイギリス英語話者や非ネイティブ話者が含まれていた。また、リーディングでは、センター試験でこれまで出題されていた発音・アクセント問題、文法問題、語句整序問題がなくなり、全て読解問題となった。さらに、リーディングとリスニングの配点はどちらも100点で比率は1:1となり、設問数にも変化がみられた。

 

2.セクション別の概要

 リスニングとリーディングにおいて、センター試験からの変更点を以下に記述する。

 

①リスニング

 ⅰ)設問数など

 大問数はセンター試験より2つ増えて第6問までとなり、設問数は37問とセンター試験よりも12問増加した。また、流れる音声の語数も増加していた。

 ⅱ)出題形式・内容など

  ・会話の一部にイギリス英語話者や非ネイティブ話者による音声が含まれていた(センター試験では全てアメリカ英語話者)。

  ・後半の大問(第4問~第6問)でグラフや表から情報を読み取る問題が大幅に増えていた。

  ・音声を流す回数は、第1問・第2問は2回ずつ、第3問以降は1回ずつと、大問ごとで分かれていた(センター試験では、全ての設問で2回ずつであり、平成30年度の試行調査では、第3問までを2回ずつ、第4問以降は1回のみ音声を流していた)。

  ・第6問Bでは、センター試験と比べて、話者の人数が3人から4人に増えていた。

 ⅲ)難易度

 センター試験と比べて、設問自体の難易度はほとんど変わらないと思われる。ただ、語数が増加した点や、一部の大問で音声が流れる回数と話者の人数に変化がみられた点などを踏まえると、全体的には難易度はやや上がったといえる。

 

②リーディング

 ⅰ)設問数など

 大問数はセンター試験と変更はなかったが、設問数は38問と8問減少した一方で、全体の語数は大幅に増えていた。

 ⅱ)出題形式・内容など

  ・全て読解問題であった。

  ・設問文が全て英語であった。

  ・正解を複数選ばせる問題や、主観・客観的な視点から問うfact/opinion問題(そ  れぞれの選択肢が「事実」なのか、「意見」なのかを見極めさせる問題)といった   特徴的な出題がみられた。

  ・下記の通り、イギリス英語の綴りや表現が採用されていた。

   第2問A:MrやMsの後にピリオドがない。

   第2問B:realise、時間の表記(6.00 pm)

   第3問A:underground、roadworks、時間の表記(2.00 pm)

   第3問B:centre、learnt

 ⅲ)難易度

 センター試験と比べて、設問自体の難易度は変わらないものの、文章や図表等から読み取る情報量が増加した。これにより、受験生によっては解くまでに多くの時間を要した可能性が考えられることから、リスニングと同様、全体的な難易度はやや上がったといえる。

 

3.考察

 上記で述べたように、初年度の共通テストでは、これまでのセンター試験から変更された箇所が多くみられたが、その特筆すべきものの一つとして「英語の多様性」があげられる。リスニングではアメリカ英語話者だけでなく、一部でイギリス英語話者や非ネイティブ話者による音声が採用され、リーディングでは舞台をイギリスに設定している大問においてイギリス英語特有の綴りや表現が用いられていた。これらの背景には2つのことが考えられる。1つは、学習指導要領に「様々な英語が国際的に広くコミュニケーションの手段として使われている実態にも配慮すること」とあること、もう1つは、大学入試センターからも、センター試験および試行調査からの変更点としてイギリス英語の使用が公表されていたことである。このような傾向は今後も続く可能性が高いと思われる。

 このように、「英語の多様性」に目を向けた点については、英語の実用性という観点からも良い動向であると考える一方、気になる点もあった。

 まずリスニングは、これまでのセンター試験と異なり、音声を流す回数が大問によって1回と2回で分かれていた。この変更の意図としては、「設問の難易度を上げること」、「1回のみで聞き取ることができるリスニング能力の高い受験生を弁別すること」などが推測されるが、いずれにせよ、戸惑った受験生もいたのではないだろうか。

 またリーディングは、設問自体の難易度はセンター試験とほとんど変わらないものの、文章や図表などの情報量が多く、受験生に対して、「限られた試験時間内で多くの情報を照らし合わせながら問題を処理することができるかどうか」を問うことに重きを置いている印象だった。

 以上のことから、今回の英語の共通テストは、受験生の学習習熟度を適切に測るための役割をきちんと果たせていたのか、疑問が残るところである。大学入試センターのホームページ上では、「大学入学共通テストの果たす役割」に、「知識の理解の質を問う問題や、思考力、判断力、表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視した問題作成を行います。」(『大学入学共通テストの役割』より)との説明がなされているが、今回の共通テストではそれがしっかりと反映されていたとは言い切れない部分があるように思う。次年度以降の共通テストにおいても、引き続き「実用英語」がテーマとなり、特にリーディングでは、グラフや表を参照しながらある程度の長さの文章を読み問題を解く形式は続くと思われる。もちろん、限られた時間内で多くの情報から必要な情報だけを探す力を測ることは大切であるが、たとえ長文読解問題であっても、受験生が持っている知識をアウトプットできるような、これまで学んできた文法や文構造を理解し適切に使うことができるかを問う問題があってもよいのではないだろうか。文科省のホームページ上では、大学入学共通テストの目的を「大学入学志願者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定すること」と掲載しているが、今後の共通テストの在り方を考える上で、この本来の目的に立ち返る必要があるのではないかと考える。