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2021年「大学入学共通テスト」への当社コメント(日本史B)

令和3年度(2021年実施)試験(日本史)について


【総評】

 令和3年1月16日(土)に実施された令和3年度大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の日本史Bと令和2年度大学入試センター試験(以下、センター試験)の日本史Bとを比較すると、共通テストの平成29・30年度試行調査(以下、試行調査)のような大枠の部分の変更(試行調査におけるリード文形式の不採用や歴史用語に関する知識を問う設問の大幅な減少など)はなかったものの、変更点がいくつかみられた。

 共通テストが試行調査よりもセンター試験を踏襲していることは、独立行政法人大学入試センターの「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」(以下、問題作成方針)の「センター試験における問題評価・改善の蓄積」を生かすことができていたため評価できる。例えば大問構成について、大問数6題はセンター試験と同様であり、大問でとりあげられているのも、第1問がテーマ史、第2問が原始・古代、第3問が中世、第4問が近世、第5・6問が近現代であり、センター試験と変わらなかった。また、大問の中でとりあげられる時代や分野もセンター試験と同じように幅広く出題された。時代については弥生時代から現代の1970年代までを出題、分野についても政治・社会経済・外交・文化と幅広いものとなった。問題作成方針で「大学教育の基礎力となる知識・技能や思考力,判断力,表現力を問う問題作成」を掲げているため、センター試験と同様に幅広い出題であるのは評価できる。

 しかし、共通テストでの主な変更点として以下の4点があげられるが、そのうち3点は問題を抱えている。そのため共通テストでみられた変更については、問題作成方針を達成しようとする意図がみられるものの問題にあまり反映されていないためあまり評価できない。なお、共通テストの主な問題点については、後述の【特徴的な出題】で詳細を分析する。


・センター試験ではみられなかった場面設定のある大問形式(【特徴的な出題】

 …場面設定が問題作成方針の「『どのように学ぶか』を踏まえた問題」を作成するうえで効果的だったと感じられず、場面設定することでかえって問題へ悪影響を及ぼしていたため、場面設定によって「『どのように学ぶか』を踏まえた問題」を作成するには更に工夫する必要がある。

 

・組合せの設問の大幅な増加(【特徴的な出題】

 …組合せの設問を単純に増やすことが、問題作成方針の別添の歴史の問題作成の方針(以下、歴史の問題作成方針)の「歴史的事象の意味や意義,特色や相互の関連等について,総合的に考察」して解答するような出題になっていたかは、疑義を呈さざるを得ない。


・初見の資料の活用の増加(【特徴的な出題】

 …初見の資料を活用する設問の中には資料から思考せずとも解答できる設問があり、問題作成の意図に合わない設問となっている課題を依然として内包している。


・設問数

 …36問から32問へと4問減少する変化がみられたが、歴史の問題作成方針において「歴史に関わる事象を多面的・多角的に考察する過程を重視する」とされる共通テストが、センター試験よりも解答に時間がかかると判断されたのではないか、と推測できる。設問数は減ったもののセンター試験よりも史料・図版・地図・グラフなどの資料が大幅に増加したため、センター試験と同じ60分間で共通テストを解答するために適切な変化だったと考える。

 以上を踏まえて、共通テストに対する総合的な評価を述べる。共通テストの中には後述の第6問問3(1920年代~1930年代前半の寄生地主制の状況を、理由も踏まえて解答する設問)のようにセンター試験と変わらず「思考力、判断力」を問う設問もあった。問題作成方針の「大学教育の基礎力となる知識・技能や思考力,判断力,表現力を問う問題」の観点から、共通テストは「知識・技能や思考力,判断力」を問う試験問題となっている点においては評価できる。しかし、共通テストの主な変更点が課題の山積するものであることと、歴史の問題作成方針の「歴史的事象の意味や意義,特色や相互の関連等について,総合的に考察する力」を問う設問が、第6問問5(戦時期の政策の要点を解答する設問)のようにあるものの一部にとどまるものであったことから、センター試験から変更しない方が良かったのではないかと評価せざるを得ない。「歴史的事象の意味や意義,特色や相互の関連等について,総合的に考察する力を求める」歴史の問題作成方針自体は評価が高いため、今後共通テストで歴史の問題作成方針に沿った問題が増えることを期待する。

 

【特徴的な出題】

 共通テストの特徴は、大きく【大問ごとの出題形式】・【出題の方法】・【初見の資料の活用】の3点である。

 大問ごとの出題形式についてはセンター試験を踏襲した大問形式(リード文形式、第1問が会話文形式)に加えて、問題作成方針の「『どのように学ぶか』を踏まえた問題の場面設定」という点を受けて問題が作成されているため、第1問、第2問、第6問のように班別学習など場面設定のある新しい大問形式がみられた。しかし、第1問のキャッシュレス化が進む現代に貨幣を発行する意味に疑問をもつ場面のように問題作成方針の「社会生活や日常生活の中から課題を発見」する場面はあっても、その課題に対する「解決方法を構想する場面」がみられず、場面設定が「『どのように学ぶか』を踏まえた問題」を作成するために効果的だと感じられなかった。むしろ、場面設定することによってかえって問題へ悪影響を及ぼしていた。

 例えば第6問問3(1920年代~1930年代前半の寄生地主制の状況を、理由も踏まえて解答する設問)では、寄生地主制を教科書で学ぶことがら(寄生地主制は戦後の第二次農地改革まで残った制度であること)とは違った側面(寄生地主制は1920年代~1930年代前半に制度として発展あるいは動揺したのかという点)から判断させることが求められた。寄生地主制を違った側面から判断させる際に、スライド1から読み取れる当該時期の不況や社会運動という社会状況に加えて、授業で学んだ知識(寄生地主制とは大地主が小作人から得た小作料収入に依存する制度であること)を踏まえて思考させるという出題意図があったと思われる。しかし、この出題意図の通りにはうまく機能しておらず、授業で学んだ知識がなくともスライド1の読み取りだけで解答できる設問だったと考えられる。その理由として、スライド1の「寄生地主制の形成」の説明によって寄生地主制についての授業で学んだ知識が明文化されているため、スライド1を読み取れば理由bの小作料の引き下げは大地主にとって好ましくない状況(寄生地主制が動揺する状況)であると判断できたことがあげられる。更に、スライド1の「まとめ」の「小作争議を通じて,小作人の地位向上はある程度実現した。」という記述から、寄生地主制が動揺したと判断できたと推察される。スライドによる出題は前述の通り場面設定のある形式を意図したものであるが、第6問問3の寄生地主制のように授業で学んだ知識であるはずの特定の歴史用語に関する説明が多く解答のヒントとなりやすい。そのため、スライドの出題形式ではなく、センター試験で出題されてきたリード文の出題形式の方が、解答するうえでヒントとなる要素を省けると考える。

 出題の方法については、共通テストではセンター試験よりも正文や誤文を1つ選ぶ設問や空欄補充の設問が減った一方、組合せ(2文の正誤、文とその文を選択した理由など)の設問が大幅に増えた。組合せの設問を増やすことによって、歴史の問題作成方針にある「用語などを含めた個別の事実等に関する知識のみならず,歴史的事象の意味や意義,特色や相互の関連等について,総合的に考察する力を求める」設問を目指したのかもしれない。確かに組合せの設問の中には、第6問問5(戦時期の政策の要点を解答する設問)のように、戦時期に小作人(耕作者)を優遇する政策がとられたことを、スライド2の具体的な政策とその政策をおこなった目的も踏まえて解答することで、戦時期にとられた農業に関する政策という歴史的事象の意義について考察することを要求していると考えられる設問もあった。しかし、第1問問3(中世の流通・経済に関する設問)のように文X・Yの正誤の組合せを解答することは、独立した個別の歴史的事実の正誤を判断して組合せるだけである。組合せの設問を単純に増やすことが、果たして「歴史的事象の意味や意義,特色や相互の関連等について,総合的に考察」して解答するような出題になっていたかは、疑義を呈さざるを得ない。

 初見の資料の活用について、歴史の問題作成方針の「教科書等で扱われていない初見の資料であっても,そこから得られる情報と授業で学んだ知識を関連付ける問題」という趣旨から、センター試験から続いている初見の資料から思考させて解答する設問が共通テストでは増加した。確かに第4問問1(江戸城本丸御殿の殿席の設問)の文Yは、教科書で扱われない「江戸城本丸御殿の模式図」について、殿席の説明から読み取れる各大名の殿席の位置と、授業で学んだ知識と想定される「日米修好通商条約調印のときに大老をつとめた人物の家」を関連付けて解答する設問であり、面白い設問となっていた。

 しかし、中には資料から思考せずとも解答できる設問があり、問題作成の意図に合わない設問となっている課題が残った。

 例えば、第1問問6(ブラジルの詐欺事件に関する設問)は「解説文を踏まえて」解答することを設問文で要求している。文a・bは中世と近世の貨幣に関する記述であるため、文c・dの正誤を判断する際に解説文を踏まえて解答することを出題側が意図していると推測される。しかし、正誤を判断する根拠は文cの「金融緊急措置令」の公布が1946年、文dの「単一為替レート」の採用が1949年という時期であり、解説文を読まずとも図3の事件が1947年の新聞に記載されたことが読み取れれば解答できる設問となっていたのは残念だった。

 共通テストでの特徴的な出題となった場面設定のある大問形式や組合せの設問、初見の資料の活用について、今後改善されていくことを期待する。