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2021年「大学入学共通テスト」への当社コメント(政治・経済)

令和3年度(2021年実施)試験(政治・経済)について

 

 【総評】

1.リード文の廃止

 政治・経済の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が大学入学センター試験(以下、センター試験)と大きく変わった点は2つある。

 変更点のその1は、リード文が無くなったことである。

 センター試験では、大問ごとに、政治や経済に関するテーマについてまとめた1ページ程度の文章(リード文)が冒頭に置かれ、文中のキーワードに関して設問が作られていた。

 これに対し、共通テストは冒頭のリード文がなく、大問ごとに、生徒たちが政治や経済の様々なテーマを話し合ったり、調べたりすることになった、という導入が置かれている。

 例えば、第2問は「民主主義の基本原理と日本国憲法についての理解を深めたい」と考えた複数の生徒が「ある大学のオープンキャンパスで、法律や政治に関する複数の講義」に参加したという導入の後に、各設問が続く。また、第4問は、生徒たちが2つのグループに分かれて「日本による発展途上国への開発協力のあり方」について探究し、クラスで発表することになったとして、その準備としてすべきことを整理した図が掲げられ、設問が続く。

2.資料分析型の増加

 変更点のその2は、資料文や図表を用意し、それらを読解・分析して解答を導くような問題(資料分析型)が増加したことである。

 例えば、第1問の問3は、日本を含む4か国の2000~2016年の消費者物価指数の変化率の図を見て、読み取れる内容を選ぶ問題、第3問の問8は、発展途上国・新興国への日本企業の進出の要因と、それが日本や発展途上国・新興国に与える影響を簡略化した図を見て、図の空欄に入る語句を選ぶ問題であった。

 センター試験でも単純な一語選択や正文選択の設問ばかりでなく、資料分析型の設問も存在した。しかし、資料分析型が全体に占める分量は、2020年度と2019年度は34問中10問程度と、3分の1以下であった。これに対し、共通テストでは資料分析型が30問中20問程度と、3分の2を占める。その結果、センター試験は2020年度が29ページ、2019年度が26ページであったが、共通テストは34ページと問題冊子の分量が大幅に増加した。

3.変更点をどう評価するか

 大学入試センターの共通テスト問題作成方針には「授業において生徒が学習する場面や、社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面、資料やデータ等を基に考察する場面など、学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する」とある。上で見たように、共通テストはそのことを意識して作成されている。

 しかし、「授業において生徒が学習する場面」「社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面」をわざわざ設けたにもかかわらず、そのような場面設定を考慮しなくても解答の可能な問題がほとんどであった。

 例えば、第2問の問4には「裁判に関心をもつ生徒Xは、元裁判官の教授による『市民と裁判』という講義にも参加した。講義後、Xは、図書館で関連する書籍などを参照して、日本の裁判員制度とその課題についてまとめた。」という導入がある。しかし、この導入を読み飛ばしても、裁判員制度についての知識と理解があれば、この設問は解答を導くことが可能である。

 せっかく具体的な場面設定をするのであれば、それが問題を解くうえで重要なヒントになっているような作り方にするなどの工夫があってもよかったのではないか。

 また、資料分析型の分量が増加した点については、問題作成方針に「知識の理解の質を問う問題や、思考力、判断力、表現力を発揮して解くことが求められる問題を重視する」とあり、資料文や図表の読解・分析を通して思考力・判断力を見ようとしたと推測できる。

 しかし、資料文や図表が増えた結果、解答に必要な時間も増えることになった。政治・経済の共通テストの平均点は49.87点で、2020年度の53.75点や2019年度の56.24点と比べると大きく下がったが、これは、膨大な資料文を読んだり図表を読み取ったりしているうちに、解答時間が足りなくなったのだろうと推測できる。そうだとすれば、今後の課題として、問題の分量を減らすことを検討すべきではないだろうか。

 

【特徴的な問題】

 次に、個々の設問の内容を見てみよう。

 共通テストでは出題形式に大きな変化が見られたが、個々の設問の多くはセンター試験と大きく変わったわけではない。

 例えば、共通テスト第1問の問1は「人間開発指数(HDI)」の説明として誤っているものを選択する問題であり、第2問の問4は裁判員制度についてまとめた文章の空欄に入る語句を選択するという問題であった。

 このような政治・経済で重要度の高いキーワードの理解を問う問題は、センター試験でもよく出題されたものである。

 しかし、共通テストでは、センター試験には出題されなかった新傾向の問題も見られた。

1.初見資料を使った問題

 その一つが、初見資料(図表や文章)を使った問題である。

 図表問題では、センター試験でも初見資料が使われることは過去にあった。しかし、その場合、図表は選択肢の正誤判定に利用する程度であり、問題を解く上で補助的な位置づけしか与えられていなかった。こういうものを除けば、センター試験における図表読み取り問題では、使用されている図表はそのほとんどが教科書に掲載されているものだった。

 例えば、2020年度本試験の第2問の問3は、スウェーデン、ドイツ、フランス、日本、アメリカの租税負担率と社会保障負担率のグラフから、ドイツと日本以外をABCで示し、該当する国を答えさせる問題である。この図を見たことがない受験生でも、社会保障制度の各国の違い(アメリカは自助努力を重視、北欧は租税などの公費の負担が大きい)を理解していれば解答可能であるが、そのような理解がない受験生でも、主要国の租税負担率と社会保障負担率のグラフは複数の教科書に掲載されているので、それを覚えてさえいれば解答できた。

 これに対し、共通テストの第4問の問4は、インド、インドネシア、タイ、バングラデシュ、フィリピンの名目GNI、電力発電量、平均寿命、栄養不良の人口割合それぞれの平均値に関して、2002年と2015年の数値の変遷を示したグラフ(名目GNI以外はア~ウとされている)を示し、ア~ウが電力発電量、平均寿命、栄養不足の人口割合のどれを指しているかを選ばせるというものである。

 この問題では、与えられたグラフは教科書に載っていないものであり、受験生にとって初見資料であった。したがって、単純な暗記では対応できない。

 この問題に解答するには、先進国と発展途上国の格差(南北問題)や発展途上国間の格差(南南問題)についての知識や理解をグラフの中に落とし込んで考えるという、政治・経済的知識と思考力・判断力を組み合わせる必要がある。

 同様に、第2問の問3は、憲法上の義務教育を無償とする規定の意味についての3つの初見資料(文章)を与え、読み取れる内容として適切なものを選ばせる問題である。政治・経済の問題というよりも国語の読解問題に近い印象であるが、教育を受ける権利や生存権の保障についての理解を問うている点で、単なる知識問題・暗記問題とは異なると言えよう。

2.空欄補充問題

 次に、空欄補充問題で興味深い問題が見られた。

 センター試験でも、資料分析型の一つとして空欄補充問題は頻出であったが、それは政治・経済の知識を問うものであった。

 例えば、2020年度の第2問の問8では、日本の住民投票制度について述べた短文を与え、その空欄に当てはまる語を選ぶというものであった。「憲法上の住民投票や条例による住民投票のように、投票によって民意を政治に反映させる制度は[ア]と呼称される」とあり、選択肢は「レファレンダム」と「イニシアティブ」の2択である。これは知識の有無を問う問題である。

 これと同じように政治・経済の知識を問う空欄補充問題は、共通テストでも出題されている(第2問の問7や第3問の問1など)が、他方で、単に知識を問うのではない空欄補充問題も見られた。

 例えば、第2問の問1は、「公法と私法」という講義に参加した生徒が、日本国憲法における基本的人権の保障について関心をもったという前書きに続いて、講義内で配布された1973年の最高裁判所の判決文の一部(資料1と2)があり、資料1の理解にもとづいて資料2の空欄に入る語句を選ばせる問題である。

 2つの資料は、思想・良心の自由をめぐる裁判として教科書でよく取り上げられる三菱樹脂訴訟の最高裁判決だが、その判決文はそのごく一部が山川出版社の教科書に引用されているだけで、資料1のような長文は掲載がなく、資料2にいたっては初見資料である。

 憲法における思想良心の自由は「国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」という資料1の記述から、これが三菱樹脂訴訟のものだと気づく受験生はそう多くはないのではないか。まして、それに気づいたとしても、資料2の空欄アに「公(的関係)」と「私(的関係)」のどちらが入り、空欄イに「団体自治」と「私的自治」のどちらが入るかを判断するには、単なる知識の暗記ではなく、公法と私法の違い、私人間における人権保障の間接適用説に関する深い理解が必要となる。

 他にも、単なる知識を問う問題でないものとして、第4問の問7がある。これは空欄に入る文章を選ばせる問題であるが、空欄イは③と④のどちらを入れても前後の意味が通るし、③も④も内容は間違っていない。ただし、空欄イは「国際貢献は日本の利益に照らしても望ましい」ことを理由にあげていると設問に示されているので、その条件に合致するほうを選択する必要がある。必ずしも問題として難しいわけではないが、政治・経済の知識だけでなく、文脈の理解がなければ解答できないので、その点は新傾向として評価できる。

3.計算問題

 最後に計算問題についても触れておきたい。

 センター試験でも計算問題はしばしば出題された。政治・経済では、名目GDPとGDPデフレーターから実質GDPを計算する問題、実質GDPから実質経済成長率を求める問題、銀行の信用創造の額を預金準備率に基づいて計算する問題、リカードの比較生産費説の計算問題などがよく出題される。これらは、公式が教科書に掲載されているので、それを覚えていれば、計算自体はそれほど難しくはない。

 しかし、共通テストでは、センター試験に比べて、複雑な計算が要求される問題が出題された。それが第1問の問2である。この問題は、ある国の2015、2016、2017年の名目GDP、人口、GDPデフレーター、実質GDP、名目GDP成長率、実質GDP成長率が表で示され、表の3つの空欄に当てはまる数字の組合せを答えさせる問題である。

 上述のように、経済成長率や名目GDPの計算式は教科書に掲載されているので、一つ一つの計算は難しくない。ただし、ここでは3種類の計算を行わなければ正解にたどり着けないため、解答に時間がかかる。

 同様に、第3問の問3は、ある国の国家財政の歳出と歳入の項目別の金額を示した表から財政状況について答えさせる問題であるが、国債依存度やプライマリーバランス、直接税・間接税の識別とその計算が求められ、解答に手間がかかる。さらに、第3問の問6も、貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の理解と、それぞれの計算が求められる。

 このような問題は、2020年度センター試験第3問の問5の、企業の資金調達における資本(直接・他人)や金融(直接・間接)を問う問題など、類題がないわけではない。しかし、今回のような複雑かつ量の多い計算を要する問題がいくつも出題されたことは、過去にあまり例がないのではないか。

 資料の熟読が求められる問題が多数出題されるなかで、このように受験生が解答するのに時間がかかる計算問題をいくつも出題することは、果たして妥当だったのか疑問が残る。この点も、今回の平均点の低さに表れていると考えられる。

 

【まとめ】

 以上、共通テストの特徴について具体的な設問例を示しつつ見てきた。

 出題形式に大きな変更が見られたものの、全体的にはセンター試験を踏襲した問題となっており、その中で、知識だけではなく、思考力を問うような新傾向の出題が一部にみられた。しかし、政治・経済的な思考力を問うことに成功している問題もあれば、そうではないように思える問題もあり、改善の余地があると思われる。また、平均点が低く、得点調整が入ってしまった点や、問題の複雑さや分量の多さにより受験生にとって解答時間の余裕がないと思われる点については、再検討が必要である。来年の動向を注視したい。