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「共通尺度」とは何だ?!~その4

前回の話で、IRTの勉強会を行うこととなった「とある県」の検討委員会。しばらく経ったある日…。

「はい、もしもし、○○県△△検討委員会事務局ですが…」
「アッ、俺だ。そうそう、俺だよ。お疲れ様は良いんだよ。お互い様なんだから。そんなことより、あれは、一体、どうなっているんだ、エーッ。もう5月も終わりだぞ。」
「あれ、とおっしゃいますと?」
「何言ってんだ、まったく。勉強会だよ。そう、IRTの勉強会!2月の末にみんなで決めただろう。先生たちは3月、4月は忙しいのは分かってるけど、もう、5月も下旬だ。検討委員会事務局が勉強会の事務局もやるって決めたじゃないか。」
「はい、承知してます。先生方にご都合の良い日を伺ってるんですが、皆さん、もう少し待ってくれ、とおっしゃるばかりで…」
「俺は何も聞かれてないぞ。どういうことだ。」
「いやあ、それは…」
「まあ、いい。いずれにしても、いつが良いか、と聞くからダメなんだ。この日にやるから、都合をつけろ、と言うんだよ。」
「そんな、私には決められませんよ。」
「それじゃあ、俺が決める。5月中に、なんとしてもやるんだ。5月31日に決行だ。場所はいつもの会議室。もう日はないけど、何とか都合つけて集まれっていうんだ。説明担当の先生はキチンと準備してくること。それ以外の先生も、キチンと本を読んでくること。ぼんやり座ってるだけというのは許さない。俺がバンバン質問するから、そのつもりでしっかり勉強しておくように!と伝えろよ。いいな。」

ガチャン、ツー。今時珍しい強引さですが、こうして第1回IRT勉強会は開催されることになりました。さて、当日の勉強会の様子はというと…。

「まったく『あの先生』は強引だな。パワハラだよ、パ、ワ、ハ、ラ。教育委員会に訴えてやろうか。」
「今日は大事な予定が入っていたのに、なんでキャンセルしなくちゃいけないんだよ。」
「大事な予定って、先生のことだから、どうせ飲みに行く用事でしょ。そんなことより、肝心のご本人はまだ来てないの?なんだよ、自分が言いだしっぺの張本人のくせに。5分待って来なかったら、みんな、帰っちゃおうよ。」
「5分は早いよ、10分にしたら?」「ほら、5分たったよ。」「よし、6分だ。」「もう、7分だね。」「さあ、いよいよ、8分だ。」「ついに、9分たちました。秒読み始めるぞ。」

すると、突然、大きな声で、
「おー、みんな、悪い、悪い。」
皆、声のする方に顔を向け、誰かが小さな声で、
「ホント、悪いよ。あと1分遅れてくればいいのに…」
「何だって?」
「まあ、まあ、これで皆さんおそろいですから、会を始めましょう。先生から何かお話しなさいますか?」
「いや、そんなものはいらん。さっそく、勉強会を始めよう。今日は、誰が、どこまで、やるんだ。」
「担当は私です。IRTの話に入る前の1章から3章をやります。では、皆さん、よろしいですか。」
「いいから、早くはじめろよ。」
「はい、はい、では、改めまして。1章から3章ですが、1章は総論が述べられていますので、今日のところは、そういうものか、ということにして、深くとりあげるのは後にしたほうが良いと思います。また、2章と3章の内容は平均値や偏差値の話ですから、もうすでに、皆さん、お分かりではないかと思います。いかがでしょう。もし、ご質問等がなく、説明の必要もないのなら、残りの時間は自由に意見交換して今日はオシマイにしてもいいのでは、と思います。」
「賛成」「異議なーし」「問題なーし」「不明点なーし」「疑問点なーし」
「そうですか、では、今日はこの辺にしておきましょう。」
「はい、結論が出ました。では、ビールでも飲みにいこうよ。この辺だと、○○が良いね。」
「おい、おい。まだ、始まって10分もたってないぞ。」
「先生が遅刻なさった時間を含めると、すでに20分近くたってますけど…」
「遅刻は申し訳なかった。しかし、本当に、みんな、わかっているんだな。理解できてるんだな。どうなんだ。少しでも疑問に思うことや、へーっ、そういうことなんだ、と感心したことなど、ないのか。飲みに行きたい奴なんかに変な気を使わないで、遠慮しないで話をしてほしい。ここで取り上げるべきことは、本当に何もないのか?」

『あの先生』の言うことなど先生方はどこ吹く風で、ほとんどの先生が帰り支度を始める中、初めから黙ってうつむいていた一人の若い先生が、「あのー」と遠慮がちに声をあげました。しかし、誰も気づきません。そこで、少し意を決したように顔をあげて、
「すみません。みなさん、ちょっと待ってもらえませんか。」
皆の視線が、この先生に向けられました。
「すみません、みなさん。実は、私、一つ、わからないことがあるんです。」
すると、どうせ大した質問じゃないだろうといわんばかりに、
「はい、はい、なんでしょうか。遠慮しないで、わからない点を早くおっしゃってください。今日の説明担当の、あちらの先生が何でも答えてくれますよ、ねー。」
「はい、ありがとうございます。標準偏差の求め方なんですけど…、本の51ページの下から9行目にこうあります。

IRT入門 p.51より

「IRT入門」p. 51より

 

「本には、まるで当然のように、そこで、差の2乗を計算します、とありますが、何で、2乗なんでしょうか。絶対値じゃ、だめなんでしょうか。2乗すれば負の数になることはありません、とありますが、絶対値をとっても負の数になることはありません。」
「絶対値? あー、ぜったいち、ね。確かにそうね、でも、2乗したほうが計算が楽なんじゃないの。そもそも、エクセルの関数を使えば良いんでしょ?」
「それが、私も、エクセルの関数を調べてみたんですが、標準偏差を求める関数が2つあって、どっちを使えば良いのか、私にはわからないんです。それから、本の50ページに、標準偏差の求め方の表(表5)があります。これですね。

IRT入門 p.50 表5

「IRT入門」p. 50より

 

この表で、得点から平均値を引いて絶対値を求めると、上から順に20、15、15、10、5、0、5、10、15、35ですから、この合計は130です。これを、人数の10で割ると、13となります。あれー、本に出ている標準偏差の値16よりも小さくなるんだ。偶然かな?いずれにしても、暗算でもできなくはない計算ですから、わざわざ差を2乗するよりも、こっちのほうが絶対に楽ですよ。皆さん、どうですか?」
「確かに、そうかもしれないけど、ここで、標準偏差の計算方法を改めましょう、と世間に訴えても仕方ないでしょう。」
「そんな大それたことを考えてはいませんよ。ただ、私は、なぜ、絶対値を使わないのでしょうか、という素朴な疑問をお聞きしているだけです。」
「おそらく、何年もかけて偉い優秀な先生方が研究してきて、絶対値よりも2乗したほうが良いとの結論がでたんですよ。なぜ絶対値を使わないのか、私にもわからないけど、偉い先生が言うことには従いましょうよ。」
「…そうですね…、そうしましょうか。私も、絶対値じゃないと、絶対におかしい、と思ってるわけじゃないんで…」
「はい、質問された先生もご納得いただいたところで、今日は、オシマイ、ということでよろしいですね。」

ここで突然、終了宣言をさえぎるように、これまで黙っていた『あの先生』が、
「ダメ、ダメ。みんな、なに、言ってんだ。これから、IRTという未知の世界に踏み出すんだぞ。不明な点は、みんなで考えて、明らかにしていくんだ。何でもかんでも、偉い先生が言ってるからといって、無批判に丸呑みするのか。毒だったら、死んじまうんだぞ。標準偏差を求めるときに、得点と平均値の差の絶対値を取るのではなく、なんで、わざわざ2乗するんだ。誰か、納得のいく説明ができないのか。できないのなら、このままで終了なんかできるもんか。どうなんだ、誰かいないのか!」

少し沈黙が続いた後で、一人の先生がしぶしぶ話を始めました。
「エーッ、とですね。つまりですね、私も確かなことはいえないんですが、おそらく、データの散らばり具合だけを見るのであれば、絶対値を使うことが間違いとはいえないと思います。一つの定義としては成り立つんではと思います。ただ、データの散らばり具合の程度を表す数式を使って、あれこれと発展的に物事を考えていく場合、絶対値は扱いにくいということがあると思うんです。」
「扱いにくい、ってどういうこと? 絶対値って、マイナスになったら符号を取ればいいだけでしょ。簡単じゃないですか。」
「そうですね、具体的な数値が与えられているときの、絶対値の処理は簡単といってもいいのですが、数学的に扱うといいますか、そうそう、数学の場合、よく一般式で表すことが多いですよね。たとえば、得点xから平均値mの差の絶対値ということで、これを式で表すと…、ホワイトボードに書きますね。エーッ、|x-m|ですね、これをですね、絶対値を開くというか、展開するというか、どういう言い方がいいのかわかりませんが、x-mがプラスなら|x-m|は、x-mです。しかし、x-mがマイナスなら|x-m|は、-(x-m)となって、-x+mになります。」
「そりゃあ、そうでしょう。私でもわかりますよ。それが何か。」
「ですから、絶対値の中がプラスかマイナスかで場合わけが必要になるわけです。」
「そうでしょうね。そうすれば良いんじゃないですか。」
「そんなに簡単に言わないでくださいよ。たぶん、そこんところが、扱いにくさなんじゃないかと思うんです。繰り返しますが、データの散らばり具合をみるうえで、得点と平均値の差の絶対値を使うことは決して誤りとはいえない。ただし、発展的な内容を扱うことを考えると、差の絶対値ではなく、差の2乗をとるほうが都合が良い。数学的に扱いやすい、ということだと思います。たぶん。次までに、ネットなどで調べておきますので、今日のところは、このくらいで勘弁してください、先生。」
「よし、良いだろう。とにかく、なにも考えずに、これで良いんじゃないですか、は駄目だ。なぜ、どうして、と自問し、皆で考えるんだ。いいな。」
「はい、では、そういうことで、今日はお開き。次は、4章[IRTによる学力推定の方法・その1]です。担当は、あっ、先生ですね。よろしくお願いします。内容が難しいので、次回は期末テスト終了後の7月下旬でよろしいですか。良いですね、先生。」
「少し間があくけど、まあ、良いだろう。次回は遅れないからな。」

急遽開催された第1回IRT勉強会、次回はどの様な話題が出てくるのでしょうか?